アトリエ訪問:前田美絵 インタビュー

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第八回 アトリエ訪問 前田美絵 http://mmnest.jimdo.com/


話す人:前田美絵→前
聞く人:名倉→名 ライター:植岡→植 サントラ制作:ユキ→ユ


名:それでは前田美絵さんのアトリエ訪問インタビューをさせて頂きます。
植:よろしくお願いします。
ユ:よろしくお願いします。
前:「よろしくお願いします。頭は真っ白です(笑)」
名:アトリエ訪問インタビューは、事前にある程度こういう事聞きますっていうのを送っていますが、全てこれをやらなきゃいけないって事じゃないんで、話して脱線する…むしろ脱線歓迎です。気楽にお願い致します。
前:「はい」
名:では早速インタビューを始めますね。まず自己紹介と合わせて、前田さんはもともとテキスタイルを学んでいたという事ですが、テキスタイルから作陶を始める迄の経緯を教えてください
前:「はい。前田美絵です。今は陶芸をして主に器をつくってます。テキスタイルは大学の時やってたんですけど……自分もなんだろうって思っていて、そのきっかけ。自分では自然な流れで来たので、強く、陶器! って感じで始めた流れではなかったんですよね。テキスタイルをやっててその表現の一部で、陶器も必要、やってみたいと思ったのが始まりで、それっていうのは、スティグ・リンドベリっていう芸術家であり工業デザイナーである、スウェーデンの人なんですど、その人が大きかったかなと思って……知らないですよね?」
名:知ってますよ〜
植:僕は知らないですね。
名:北欧では自然の景色とか、自然の事柄、事象を色んな形に転換する事が多いと思っていて、それは、テキスタイル・陶芸家でも多いと思うんだよね。そういう所にすごく影響されてるのかなって。それはもちろんそこに興味があって、自分の中に一度落とし込んで、発信してって。
前:「そうですね。この人はスティグ・リンドベリっていうんですけど……」
名:日本でもコレクターの人は多いし。
前:「北欧ブーム……北欧ブームっていうのはあんまりあれなんですけど(笑)北欧ブームっていうのがあって、私の作品を見て「北欧っぽいね」って言われるのがあんまり嬉しい感じじゃなかったんですけど、でも自分の気になった人はやっぱりこの人かな。テキスタイルもこの人やるんですけど、陶器もやったり、イラスト、グラフィックもやるのかな? 両方とも惹かれました。テキスタイルも、陶器も。で、その中でも印象的だったのは、花瓶に凹凸が付いた柄の作品があって、それにすごく刺激を受けて。でも、これ見ていきなり「陶器やろう!」ってなった訳ではなくて、テキスタイルの表現方法、表現したいものをこれからインスピレーションを受けて。テキスタイルって布に柄を描くんですけど、私は布に絵を書く方が多かったかな。なので、これを見た時に、花瓶に柄を配置した絵を描こうと思ったのが一番最初かな? そこから、色んな方面からあるんですけど、柄が凹凸になってたってのも気になって、ここからまた消しゴムで判子をつくって、それを連続模様にしようっていうのが浮かんで。そんな作品をテキスタイルでつくって、今度はそれと同じ物を陶器でつくってみたいと思ったのが流れで」
名:それはテキスタイルは布がベースだと思うんだけど、陶器にしても、両方とも、布だから陶器だからとかじゃなくて、同じキャンバスとしてそのまま扱っている?
前:「そうですね。うんうんうん。表現の一部って事かな? で、表現方法のひとつが見つかって、それは大学在学中なんですけど。で、見せたいと思って個展をやったんですど、それは今迄もテキスタイルで個展みたいなものはやってたんですけど、カフェの壁面を借りたりとか。それで色んなカフェを探してましたね。で、rojicafeさんに行ったってのもあるんですけど。で、選んだのは、黒磯のSHOZO展示室っていうのがあって、そこを貸し出してる時があって」
名:結構前だよね?
前:「結構前です。今はやってないと思うんですけど。それで一週間借りて、テキスタイルと陶器をコラボさせて、展示をしたんですけど、それが卒業制作前か。ちょっと写真があるので観て貰った方がいいのかな? テキスタイルがあって、全く一緒の花器をつくろうと思ってつくった、これは初めての作品ですね。陶器で表現したいと思って、どうしたらいいのかなって思って、陶芸教室を探して、通って、そこでつくった最初の作品」
名:それが、今の後ろにあるやつ。
前:「形は同じじゃないんですけど、その頃の。スティグ・リンドベリの作品にインスピレーションを受けて、それでこれをつくって展示をしたっていう流れ。そこですかね、きっかけは」
名:それは2000何年ですか?
前:「2007年の夏ですね」
名:2007年の夏頃は、まだテキスタイルと陶器を両方平行してやって。
前:「そうですね。大学在学中だったので」
名:それが、今はテキスタイルではなくあくまで陶器が中心だと思うんだけど、大学の頃は平行してやってたかもしれないけど、いつから陶器のみになったのかな?
前:「そうですね。陶器のみは卒業してからですね。卒業制作もコラボさせてつくって、陶器はタイルをつくったんですよね。判子で押して、布にも同じ判子で押してって感じで共通させて、テキスタイルはこれで終わりで、それ以降はやってない」
名:何故って言い方になるけれど、テキスタイルの作品、このアトリエにもあるし、見てて窮屈な感じはしないんだよね。苦労してつくってる、ストレスフルな感じはしないんだよね、抜け感がいいというか。作品からそう受けるのね。きっと両方とも好きな事やってるんだろうなって感じを受けるんだけど。そこから何故、テキスタイルはひとまずお休みにして、陶器に行ったのか?っていうのが。そこに前田さんの今に繋がる第一歩があった様な気がするんですけど、その辺はどうでしょう?
前:「ちょっとその辺は、現実的に考えた所もあって、テキスタイルも面白かったし迷ったんですね。テキスタイルでそのまま行こうとも。だけどやっぱり道具とか場所とか本当にやろうと思うと大掛かりで、個人ではちょっと難しいというのもありましたね。陶器は割りと陶芸教室通いながら出来たし、また出会った陶芸教室も自分の中ではすごく良かった所なんですけど、家から近いんですけど、本当に自由にやらせて貰って、だって、陶芸教室に入って初めてつくる作品がこれって、最初にやらせて貰えないと思うんですね、多分」
名:そうだね。
前:「カリキュラムがあって、最初はこういう物をつくりますよ、こういう小さい器つくりますよっていうのだと思うんですけど、やりたいこと自由にやらせて貰って、それもいい環境だったと思うんですけど」
名:無理矢理あれやれこれやれって言われて、学校の授業の延長の様に、やるべきカリキュラムがあってやってたら、もしかしたら陶芸を好きになれなかったかもしれない?
前:「そうですね。いい先生に出会ったなっていうのはありますね。先生も陶芸家ではなくて、もともとは家具のデザイナーさんだったんですけど、技術っていうよりも、表現、オリジナルの表現を大切にしてくれて生徒さんそれぞれ違う作品、みんなオリジナリティある作品をつくっていて。あぁ、ここなら作家活動出来るかもって思って、結局卒業して特に就職もせず、陶芸教室通って、一日中ずっといてもいいんですよ、朝から夕方迄。週に五日か六日位は開いてたかな? だからずっとそこで制作してて」
植:フルに通い詰めで?
前:「バイトしながら通ってって感じで。それを三年間か? 在学中からも教室に通い始めて合わせて三年間通って」
名:その三年間が陶芸一本で行く前の助走というような?
前:「うん。そうですね」
名:その三年はあっという間?
前:「うん。あっと言う間だったかも。通いながらも、個展とかやらして貰ったり。教室によっては展示はダメだって言う先生もいると思うんですけど。でも、どんどん勧めてくれて、良いアドバイスもくれて」
名:話を聞くと、その三年間で陶芸をやっていく上での、基礎体力と、それとは又別の精神的な気持ちの部分、前田さんはつくれたような気がしますね。
前:「そうですね」
名:それが始まりとしてあったというのはすごくいいよね? ってなんか既に締めみたになったけど(笑)
前:「本当!(笑)もし違う陶芸教室通ってたら、全然違かっただろうならなと思って」
名:巡り合わせだね。
前:「巡り合わせですね」

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名:次の質問いきます。このアトリエはいつから持つようになりましたか? 出来るだけ正確に。
前:「今のここは去年の九月に借りました」
名:2010年?
前:2010年。その前にちょっと別な所、近くの農家のお家のご主人が趣味で建てた陶芸小屋を人づてに教えて貰って、借りる事になったんですけど、それが2010年の一月か。そこはろくろもあって外に窯もあったんですけど、それはガス窯だったんで私は使えなかったんですけど、そこでは制作だけしてたんですけど、焼くのはまた教室でやってって感じだったので、なんかちょっと違うなって」
名:ひとつの場所で最初から最後迄つくれないっていうのは色々もどかしい。
前:「そうですね。なのでそこは、短かったですけど六月で」
名:引き払って、その後?
前:「その後、また色々考えて、窯持つ前にどこか違う所いこうかなって思って、まだ技術がないかなって思って、窯業学校って言うのかな? も考えたり」
名:それは産地の訓練校だよね?
前:「そうですね。その資料とか色々見たりして、あとは多治見のMAVOっていう貸し工房を実際見に行って」
名:あそこの若い作家さん良いですよね。
前:「有名な方が出て、雑誌にも出てて、で、自分も気になったと思うんですよね。どんな所かと思って行って、見せて貰って、そこで会った作家さんとちょっと話をさせてもらったんですが。ここは雑誌に載ったりしてるけど、だからといって特別なところではないし、今制作出来る環境があるんだったら、ここ来る必要ないよって言われて。確かに刺激し合える同じ仲間がいて、土の材料も近くで手に入るけれど、ただそれだけ、って。あ、そっかって思って、考えて、それでも違う所がやっぱり気になって、窯釜を持っちゃうと動けなくなると思ったから、他を見るなら今かなと思って、後は滋賀の陶芸の森、だったかな?」
名:美術館がある所。
前:そこも気になって。
名:信楽だよね。
前:「そう、信楽。そこは奈良美智さんとか活躍されている人も来て制作されていたりだとか、あと若手の人も制作したりする所で、なんか刺激ありそうだなとか思って、そこも色々資料集めて見てたんですけど、決めようかなって思ったけど、何か結局、自分でやろうって思って」
名:それは特に具体的な理由がある訳じゃなく、感覚的なもの?
前:「その時も先生のアドバイスとか。先生はお勧めしてなかったですね、窯業学校行くとか、もう自分でやったらいいじゃんみないな感じだったかな」
名:自分が行きたいなと思ってた学校なり工房なり行って、そこで話をすると、自分でやるのが一番いいよって言われる事が多いということ?
前:「そうですね。陶芸の作家さんの話聞いて、どうなんですかね? って聞いたら、窯業学校だったら、その人が先生のひき方になっちゃうって言って、それに合う人もいれば、苦しむ人もいるって。だからなんか、オリジナルがなくなっていくのかなと思って。とりあえず自分でやろうと思って。そこから物件探して、この辺自転車でぐるぐる回って、手づくりやのパン屋さんにもこの辺物件ないですかね? とか聞きながら……で、ここが空いているのが見つかって、不動産屋行って、値段を交渉したら割りと下げてくれたので、決めようと思って」
名:アトリエとして使うという話もして?
前:「そうですね。すごい理解のある大家さんで、お金もないし、そういった状況で陶芸をやっていくって理解してくれた上で大分下げて貰ったのかなぁ」
名:2010年9月から、ここで始めるようになりました。
前:「なりました。それと同時に窯釜も買いました」
名:それを踏まえた上で、アトリエをね、自分の窯も持って、場所も持って、持つ前と今の、意識の違いや実際の制作面の違いを教えてください
前:「意識はあんまりわからないんですけど……制作面はすごい変わりましたね。やっぱり窯が変わったのが大きくて、最初悩みましたね。今迄と同じ、土と釉薬は使ってたんですけど、自分でも以前、出ていた緑色をすごく気に入っていて、この色は出し続けたいなと思って、お客さんもいいと言ってくれてたので。で、またここでもやろうと思ってやったら、全然出て来なくて、全然色が違くて」
名:ショックだよね?
前:「ショック!(笑)。どうしようと思って。出すのないじゃん、って。見せれるものがないやって思って。そっからもう試行錯誤で、他の作家さんにもどうしたらいいですかね? とか聞いて、「諦めた方がいいよ、同じ物を求めるのは」って言われて」
名:確かにね。それは冷たいようだけど、ホントの事かもしれないね。
前:「うん。なるほどなって思って。まぁ、だからこの窯釜で出来るものを最初はやってて、だけどなんかイマイチだなとは思っていて」
名:ある意味いちからのスタート。
前:「そうですね。初めからやり直し。それが大きいですね。そこから実験ですね」
名:今は窯があって、事務所があって、制作の場所があってすべてがひとつの場所にある。でも、ひとつの場所にあるんだけど、部屋自体は分けられてる、セパレート型、だからすごく切り替えがしやすいのかなと思って。
前:「制作の場所だけだったら、実家に建てても良かったんですよね。多分工房は。その分、家賃も掛からないし、って考えてたんですけど、やっぱりみんなに観て貰う空間をつくりたいなって思ってたんで、ある程度ちょっと広い所にしましたね」
名:観て貰うって言っても、お店で観て貰うんじゃなくて、それとは違う観て貰いたいってことがあるのは、ある意味性分的な事かな?
前:「そうですね」
名:それは何でかな? 単純にお店に卸して観て貰えばいいし、展示をして観て貰えばいい、というのもあるでしょ?
前:「そうですね」
名:それ以外にホームページもあるし、実際に制作の場所と事務所があって、そこに作品が置いてあって観て貰いたいっていうのは、そこに特別な事があるのかな? って思うんだけど。
前:「そうですね。やっぱり自分の空間で観て貰いたかったんでしょうね」
名:つくった場所で出来上がって、それをそのままつくられた場所で観て貰いたい。
前「そうですね。で、つくってる場所とかも観て貰えたらいいし、あと量があるから、お店だと限られちゃうし、全体で観て欲しかったんですね」
名:トータルで?
前:「トータルで」
名:自分のやってることを?
前:「うんうんうんうん。そうですね」
名:自分の場所を持たないとなかなかそこ迄出来ないよね? ある意味経費の事を考えたら、実家に工房建てた方がお金的には困らないと思うんだよね? でもそうじゃなくて、ちゃんと場所を借りて、すべて自分でやる、ということによって色々なことを考えるよね? 現実的な事も考えるし、やりたいこと、観てもらいたい事・・・そう思いました。
前:「そうですね」

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名:次いきます。前田さんの作品は、手触り感のある地肌、そこにテキスタイルをやってたから、意匠が描かれている事が特徴的なんだけど、でも今はそうじゃない作品が多いよね? 今の所、僕が最近観るのは、意匠が少ない物が多い様に思うのだけど、だからこの質問はちょっと現時点ではあってないなと思ったんだけど、まぁ敢えて、意匠があったりないもの、そこに色であったり触った感触が前田さんの作家性だと思うんですけど、自分自身はどのような器づくりを目指してますか? それは成形ついて、釉薬について、意匠について、などなど。
前:「昔は柄の物が多かったんですけど、それって言うのはやっぱり自分がテキスタイルをやっていたから、それが自分のオリジナルだと思っていて、いっぱい描いてましたね。なんかテキスタイルやってたんだからそれを活かさなきゃっていうのがあったと思うんですけど、でもやってる時は楽しくやってたし、柄描くのも勝手にスラスラ描けてました」
名:自然に。
前:「自然に。だからいい状態でその時その時は制作してたんですけど、だんだんスラスラ描けなくなって来て、多分違うなって思った」
名:マンネリ?
前:「うーん。何だろう? 気持ち的に違うかなって。で、なくなって来たっていうのは、やっぱりここのアトリエを借りたって事もまた大きくて、自分の器を使う様になった。今迄はそんなに、自分の器を使ってなかったですね。あんまり盛る事も考えてなかったし、面白い器をつくりたいってことがあって、何盛ったっていいんじゃないか? って思ってたんですけど。このアトリエ借りて、キッチンもあるんで、お昼をつくったりして、自分の食器を使うと、柄物だとなんか違うなと思ったのかな」
名:今はどんな器づくりを?
前:「今は、色ですかね? 色に重点置いてるかな。色味を大事に」
植:色で質問があるんですけど、前田さんの作品は色数が制限されているというか、選ばれている感じがあるじゃないですか? そこに対する想いとか、それを絞っていった過程を教えて欲しいんですけど?
前:「色を出すのに……色は釉薬なんですけど、実験していく中でポッと色が見付かるんですよね。この色いいっていって。最初は緑が出したいなって思って、でも思った通りに出ないですよね? まず。だから実験していく中で見つけ出す、自分の色というのを。で、それを自分で拾っていって、拾っていったのが今ある器の色かなぁ。自分が気になった色は自分と合ってるか? とか、あと今迄出来て来た器と合うかどうかとか、全体を見てその色が馴染むかどうか? とか考えながら色数をちょっとずつ増やしてますね。今は、黒、緑、渋いピンクの三色で、器を使う時も組合わせで、その器同士が良い組み合わせかどうか? と言うのも考えながらやってますね。まだ新しい色は試作してますけど、今度は黄色っぽいのかな? って」
植:その色を実験してつくっていく過程で季節だったりとか、自分の中に残っている記憶だったりとか、そういう物も反影されますか? それとも作業的なものですか?
前:「その辺は無意識ですね」
植:無意識?
前:「うん。テキスタイルやってる時からコンセプトってあんまり持たなくて、それを昔は悩んではいたんですけど、今はコンセプトがない感じで無意識の中から出て来るのが、あ、自分だな、という事に気付いて。気付いたらすごい楽になったんですけど、だから自分の中にあるもともとの感覚で出て来てる色かなって思いますね。昔から、小学校の頃からくすんだ色が好きで、あ、昔から自分の中に眠る何かがあるのかなって(笑)
名:DNAに?(笑)
前;「そう(笑)それを素直に出していくのがいいのかなって思って」
名:色を見つける作業も、ひとつの緑でもグラデーションでいったらものすごい段階がある訳だよね? その中から一生懸命探し出すってよりも、やってるうちに自分の気持ちいい緑が見つかったっていうか、たまたま腑に落ちる緑があって、これいいなっていう。それが多分、色の見つけ方かな?
前:「うん。無意識に。だからたまに自分は無意識に生きているんじゃないかって思います。そんなことないとは思うんですけど(笑)その位ホントに考えてない。頭で考えない。絵を描くときとかも、頭で考えない。その方が良い物が描けるし。頭で考えてるとなんかいやらしくなりますね。陶器に絵柄、判子を押していく時も、無意識っていうか?」
植:感覚?
名:自分のリズム?
前:「リズムで。うーんって考えながらじゃなくて。もうすぐに降りて来るって感じ。それがスムーズに出来た時が一番いいのが出来ますね」
名:その状態を保ってくって、ものすごく考え込んでやるよりも大変かなって?
前:「あぁー」
名:例えばそこに落ち着かない時、これいいなって落ち着かない時、そういう時どうしてるんだろう? って。結局物をつくってて、材料っていうのは無限にある訳じゃないじゃん、やっぱり材料を手に入れるのにも経費はかかる訳で。そこでこう、なんて言うんだろうな? 偶然を引き寄せるとはちょっと違うんだけど、降りて来るのを待つ、という感覚の様な気がするから、それが降りて来なかった時にどうするのかなって
前:「あはははは(笑)あー、どうするんでしょうかね? 待ってないと思います。なんか常に動いてる? 手を動かしているかなぁ。悩んだりもあんまりしないですね。陶芸は沢山の土、釉薬があって、またその組み合わせが少し違うだけでも、違った表情、色が出るし、試すことは尽きないし。違うなと思えばまた次へ、自分が出来る範囲の中で。悩んでる場合じゃない!って、頭で考えるよりも、手動かしてやることやってこうって、いつも思ってます。降りてこなかったときのことは考えたくないですね。マイナスのことはあまり考えたくないですね」
名:あーそっかそっか。
前:「普段から制作以外の事も。動いて動いて動いてく。だから色んな所行って、刺激受けたりとか色んな物を観たりとか、展示とか、自然の中に居たりとか、ま、走ったりとか。そこからいつも刺激を貰うかな。料理を食べたりとか。だからまだ悩んでないかな? これから悩むかもしれないですけど」

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名:わかりました。では、次いきます。前田さんのサイトを観てると、器と料理の関係というか、ここで昼食をつくってるのかな? それはよく最近見かけるなと思って。
前:「お恥ずかしいんですけど」
名:いいと思いますよ。
植:すごい美味しそう(笑)。
名:それは単純に、料理する事が好き、楽しいだろうなって思うんだけど、それをサイトで観せるっていうのは、何かそこに意図はあるのかなって僕は思うんだけど、その辺りはどうでしょう?
前:「はい。好きとはまた違うんですけど、多分、載せる様になったきっかけは、器を販売してて、何を盛ったらいい? とか、どんなのが合いますか? とか聞かれる事が多いので……最初は出て来なかったんですよね。料理もそんなにしなかったし。それじゃダメだと思って料理を始めるというか、色々してみようと思って何が合うか考えてみようと思って、それでサイトにも載せて、色の組み合わせを観て貰いたいなと思って。それが載せたきっかけですね。今はそれも表現の内と思って来ていて、今迄の作品、柄や絵が入ってた作品はうつわひとつでそれで完結してて、お皿をキャンバスに見立てて絵を描いていったって感じで、今は無地のお皿が多くて、料理を盛って完結するという風になったのかな。だから自分で料理を盛って、お皿使って見せるっていうのがしたいなと思って。表現として」
名:器が器としてあるってことだよね? 今の方が。テキスタイルの意匠をのっけた時よりも、今の無地のスタイルで料理を使って、料理を盛っている方が器らしい器。
前:「そうですね。使う器って感じですね。でも最近、使うってことだけを考え過ぎてもダメだなって思う様になって。なんだろう、やっぱり表現の一部かな? 器をつくるのは。料理を映えさせる器ってよりかは、なんだろうな? 器と料理が対等になってひとつに見せる、ということの方がやりたいなと思って。難しいけど。グラフィカル的に見せたいっていうのもあって、多分上から取る写真が多いから、グラフィックっぽく」
名:フォルムじゃなくて?
前:「うん。フォルムの前に、食材の色と器の色の対比とか、そういう組み合わせの面白さで観て貰えたらいいなっていうのはありますね。」
名:その辺さぁ、正面から撮ってグラフィカル的に見せるっていうのはわかるけど、器に料理が盛ってあることによって、真上から観る器も奥行きが出るよね? あんまり良い例えではないけど、前田さんのドンブリがあるとしてラーメンを入れました(笑)それは平皿だとは誰も思わないよね? それと同じ様にパスタのっけましたとか、物によって、盛る料理によって、見る側も深さはこれ位あるのかな? とか想像はつくから、そういう意味で料理をのせていることはすごくいい気がする。平行や水平に写真撮ってフォルムだけ見せるよりは、ホントの意味で親切。大きさはこれです、30センチです、15センチです、深さは5センチですってよりも、考える側に余地があるっていうか、想像が働くという方が良いと言うか、僕はその方が好きかなって。ま、それは僕の意見ですけどね。
前:「料理をするとどんな大きさの器が必要になって来るかもわかるのかなと思って、それもあったから……」
名:今迄の前田さんの話を聞いてると、自分で嫌じゃない「でも」が多いなって思って。
前:「でも?」
名:ポジティブな「でも」。料理に関してもそうだし、意匠から無地にいく時にもそうだし、決めつけないというか、変える時には多少なりともこうしようかなって決めてると思うんだけど、それもこういう風にしたらこうするってやり切るんじゃなくて、そこにこう振り幅の余地があるというか、そういう風な人なのかなと思って。だから逆にこう、自分で勉強してる、自分で学んでいってるのがあるのかなって。無意識とも言うけど、決めつけないが故に自分で学んでいけるというか。そういうのがすごく軽やかというか、僕はすごくいいと思います。
前:「なんか、アートと生活との間に居たい。実用的過ぎず、でもアート寄り過ぎず、生活の中には居たいので、その真ん中辺りをさまよってます」

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名:はい。ありがとうございます。次にいきます。アトリエの話に戻りますね。アトリエではどんな風に過ごしていますか? 住まいはここではなく、アトリエに出勤して来るんだよね? その、制作以外というか制作も含めてアトリエで過ごす一日の流れについて教えて貰えたらと。時間とか決まってれば、タイムカード押すとか。
前:「タイムカードは押さないんですけど(笑)、だいたい9時か10時の間位に来て、まずちょっと掃除するかなぁ。いつも制作終わった後って疲れ切ってるんで、汚いまま家に帰るので。まぁ朝来て、きれいに掃き掃除とかして、水洗いしたりして整えてから制作に入って。で、12時迄制作して、その時間になったらちゃんとお昼食べて、つくったりとか」
名:出前取ったりとか?(笑)
前:「出前ー!(笑)取らない。ここに座って一人で食べて、自分の器観ながらとか(笑)」
植:器は友達だもんね(笑)
前:「そうそうそう(笑)で、ちょっと冷静になって観て、あと使ってる器どうかなぁーとか観ながら食べてますね、30分位。そこから皿洗ったりして一時間位かな、昼休み。で、また制作に戻って、ずっーと制作して四時位になったら、一休み。珈琲飲んで、甘いの食べて、珈琲いれたり、お茶いれる作業も息抜きの内って感じで。休憩大事ですね。集中力切れちゃうんで一回休んで、ろくろひく時なんかは集中しないと」
名:集中しないとね・・・
前:「うーん、結構よれよれっていうか、中心が取れなかったりとか、ま、技術が下手なのもあるんですけど、集中力大事だなって思いますね。嫌な事とか考えてたりイライラしてると出来ないですね。なので、落ち着かせる意味でも休憩して、で、また制作に戻って、夜は11時位を基準に、11時か11時半かな?」
名:結構長いね。思った以上に。
前:「うーん、追われてる時とかはそんな感じで」
名:14時間拘束かあ。
前:「後はブログを書いたりとかして制作してますね。ま、他の日がバイト行ってたりするんで、ここに一日居れる時はがっつりやりたいなと思って。午前中バイトして来て、そこから始めたりもするんで、やっぱ終わりはそれ位になるかなぁ。だから家帰った時にはすごい疲れて、放心状態(笑)」
名:ヘトヘト。
前;「ヘトヘト(笑)ご飯食べてこたつで寝ちゃうから、ベットに辿り着くのが3時位。動きが遅くなっちゃう。亀みたい(笑)」
名:亀より遅いと思うよ(笑)。
前:「ホント思いました(笑)」
名:亀も怒るよ(笑)。
前:「集中するって疲れますね、でも」
名:でも気持ちいいよね? 集中した上で休憩をしっかり取るっていうのは。すごくクリアになるっていうか。集中してるときはクリアになるけれど、それが長すぎるとと濁ってくるっていうか、色々な物が混じってきて、疲れちゃって。そこで一回休憩取るっていうのは。
前:「そうですね。あと、ちょっと前迄は休憩の時に、走りに行ってましたね」
名:休憩じゃないね(笑)
前:「それは大会にも出るっていうのもあって、走らなきゃ、てのもありましたけど、それも息抜きでしたね。スッキリする」

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名:次いきます。手創り市に参加したきっかけを教えてください。あと参加してみての感想、手創り市への注文というか、こんなのどうでしょうか? っていう提案でも、是非聞かせてください。
前:「きっかけは、手創り市を知ったのはrojicafeに行ったからかな? 友人がrojicafeさんで展示をしていて、それを観に行ったっていうのが」
名:誰ですか?
前:「ナカウチくん」
名:ナカウチくんかあ!
前:「そこであの白い猫のDMかな? あれを見て、こんなイベントあるんだって思って。私もrojicafeさんで展示をしたいと思って行ったんですけど、今後の予定を聞いたら全部埋まってて、あ、ダメだって」
名:うん、まぁねえ、あそこは貸さないしね。
前:「?」
名:貸してって言われても貸さない。
前:「そうなんだー。ふーん」
名:手創り市は開いてるけれど、まあそういう場だし、でもrojicafeは基本的に自分たちで呼ぶという姿勢です。紹介とかも断るし。
前:「間違って聞いてたな。無料で貸してくれるって」
名:無料では貸してましたけれど・・・
前:「誰でも良い訳ではない?」
名:開放はしないって感じ。はい、話の続きをどうぞ。
前:「はい。それが手創り市を知ったきっかけですね。で、実際に会場を観に行ったのはイチョウが綺麗な時でした。秋でした。その雰囲気観てだったのかな? 出してみようと思ったのかな? それがきっかけですね」
名:で、これまで参加してみての感想。感想っていうと漠然としているから、すごく嬉しかったこと。ちょっと良い話を聞きたいんで(笑)。
前:「良い話?(笑)あーでも最初の頃とかなんか、行きたくないなって思ってた」
一同:「ははははは(笑)」
植:良い話じゃないね(笑)
名:それ良い話だね(笑)いいよいいよ、全然面白い! なんでなんでなんで?
前:「朝早いし、遠いし、寒いしって時もある(笑)」
名:でもまぁ自分で申し込んでるよね?(笑)
前:「確かに(笑)最初は電車で行っていた時もあって、スーツケースに自分で詰めて」
名:それしんどいよね?
前:「階段がすごい大変でしたね」
名:池袋の階段だね。
前:「重いし。池袋から歩いた時もあったかな? まだ何も什器を持っていかず、布だけ敷いて、並べてって、まぁ、しんどいなって思って。そんな時もありましたね。最初はそんなに楽しめてなかったかな?」
名:みんな多分そんな気がする。自分で出てみようと思って申し込んだものの、知ってる人もいないし、それぞれ自分の好きな事をやってて。でも、基本的に親切な作家さんばっかりなんだよね? ホントに何かあれば助けてくれたり、それこそ雨降ったらさ、助けてくれるとかさ、みんなで和気あいあいとしてるんだけど、最初の頃ってそんなに知ってる人がいなかったりすると、自分も不安があったり、どうしたらいいんだろう?とか、あの人の所にお客さんがいっぱいいるなあとか、そういうのを見ちゃうと、まぁ、しんどいっちゃしんどいよね。
前:「そう。最初出した帰りの時なんか、魂抜けてましたね。完全に」
名:もうこんな所来るかっ! って(笑)
前:「もう疲れ果てて、だから本当に手創り市を楽しみにしてるって思えったのは、最近に近いかも。もう出展して三年位になるけど。最近ですね。他の作家さんと関わるようになってからかな? やっぱり知ってる人がいると安心するし」
名:他の作家さんがどんなこと考えているのか? 知る様になると。
前:「うんうん。色んな話とか情報貰ったりとか。お客さんもまた先月来てくれた人が今月来てくれたりとか。毎月観てくれるお客さんもいて。うん、ホントありがたいし、嬉しいし、そこで色んな意見も聞けるし。反応も見れるし、大事ですね、今となっては。制作の変化と共に手創り市で反応貰いつつ、刺激を貰いつつ。だから今があったかな? みたいな」
名:やっぱり外に出てくと手創り市みたいな会場って、一から十まで自分でやらなきゃなんないんじゃん。作品持って来て、並べて、作品の説明して、お金のやり取りも自分でやって、そこで鍛えられるよね?
前:「そうですね」
名:すごくいいお客さんもいて、観てくれるだろうし、「作品観てください」って言っても、プイっていっちゃう人もいるだろうし、両方とも大事な気がするよ。 人の目にさらされてじゃないけど、そういうのを味わうと、何て言うんだろうなぁ、色々工夫してくし、とにかく鍛えられるというか、そんな気がします。
前:「今は丁度いい、心地いい感じで出させて貰ってますね。ギャラリー借りて個展ってなるより、もうちょっと気を楽にして出展出来るのがいいかなって。あとは全部、自分で出来るのもまたいいです。販売も、お金のやり取りも、梱包したりだとか、お客さんの接客とか、全部出来るのは良いです。一番いいスタイルかな。販売していく上で」
名:マニュアルもないしね。こういう風にやらなきゃならないというのもないしね。
前:「プレッシャーもそんなにないかな」
名:注文というか、こんなのどうですか?って。なんかあれば。ホント思い付きでいいんで。
前:「何回か聞かれるんですけど、なんか思い付かないんですよね。それは多分、名倉さん達もある意味、場をつくる作家さんだと思っていて。だからそんなに要求とかはないし、名倉さん達も考えがあってそういう風に手創り市をやっていると思うから、決められた中で私達作家は、そこでどう見せていくかってことを考えているので、周りまで目がいってないっていうのがあって、要望とか考えてみるんですけど思い付かないかな。他の作家さんはみんな要望とか考えているんだろうなとか思って、今迄のアトリエ訪問の山本さんの所、観てみて、まさにこの通り、役割分担って言ってたのかな?」
名:そうですね。
前:「それぞれで全力を尽くす、まさにそんな感じだと思いました。私の言いたいものこんな感じだと思いました。そうだから、お客さんの意見が気になるかな? 名倉さん達と私達は同じ方にいて、お客さん達はこっち。こっちではどう見えているのか? 客観的には気になるかなぁ。だからルポとかでお客さんの取材してていいなと思いました。内側だけでやってもあれだから」
名:そうだね。
前:「周りからどう見えているのか?」
名:お客さんも含めて内側、って考えた方がいいよね? それを意識するかな。
前:「だからなんの文句もないんですよね。静岡の手創り市でも高山さんから「何かないですか?」ってあったんですど、思い付かなかったですね。大満足で、特に静岡は」
名:とりあえず、ついでに静岡のことを聞きますけど(笑)ホントは静岡の事は聞かなくてもいいんだけどね・・・静岡のスタッフも観るから、儀礼上聞いておきます。静岡の会場はどうでしたか? 10月参加してみて。
前:「ホントに良かったですね(笑)」
名:例えば?具体的に言ってやってください(笑)。
前:「具体的にー!」
名:結構遠いよね? 何時間位かかる?
前:「首都高は乗らないで東京から東名に乗って、四・五時間、家から五時間位だったかな。休憩とかもしつつ。帰りはえらい九時間位かかりましたけど」
名:ヘトヘトだよね。
前:「眠くて、顔叩きながら帰りました(笑)。で、会場?」
名:鬼子母神と、静岡の会場・護国神社って全然違うと思うんだよね? 大きさからして全然違うと思うし。
前:「まず、自然が多いなと思って、天気も最高に良かったからすごい会場もキラキラしてて、一周回ったんですけど、ロケーション? すごいいいなと思って」
名:お客さんとか作家さんの様子は?
前:「自分が思ってたよりも、ちょっと少ないなと思ってました」
名:確かにね。静岡の中でも意見分かれるんだけど、僕は正直、10月の静岡はそんな多くなかったかなって。前とかの方が多かったし。その一つの理由として、東京以外の地方っていうのは基本は車社会で駐車場がなければ人は来ない。で、護国神社には来場者専用の駐車場を一切用意してなくて。スタッフ全部で13人いて、順番に会場内外の路上駐車などの対応をしているんだけれど、一回目、二回目、三回目ってやってく内に、車で来る人っていうのが確実に減ってるんだよね。要するに車で来る人が減ってる分の絶対数は減ってるよ。それは大きいだろうなって。でも、お客さんの数は絶対じゃないと思ってるから、それはそれ。自分たちはこの場所でどういう風にやっていきたいかっていうのが、伝わっているといえば伝わってるんだけど、そうは言っても、来場者の数というか、会場にいてお客さんが多いか少ないかって感じる感覚っていうのは大事かな。そこは忘れちゃいけないしね。数えるつもりはないんだけど、ぱっと見とか、その場所にいて少ないなって思うのは良い事じゃない。そこにたくさん人がいるなって思えた方が、みんなが楽しいかな。僕らもそうだし、作家さんもそうだし。ま、お客さんもそうかな? おそらく。
前:「そうですね。でもかなり宣伝活動はされてるなぁーってブログ観ながら思ってて、それは私達出す側も刺激を受ける所だと思います。やっぱりイベントとか、宣伝は大事。だから主催してくれる方が頑張ってやってくれると」
名:来て貰わなきゃしょうがないしね。
前:「そこで自分が出したいなっていうイベントを、割と決めるかも知れないですね」

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名:じゃ、次の質問にいきます。これからつくる事、つくる事を始める人や、アトリエを持つ事を考えている方へ何かアドバイスなり、何かあれば。
前:「アドバイス……」
名:おこがましいでしょうけど(笑)
前:「アドバイス……」
名:自分が気を付けていること。
前:「動くって事かな?」
名:「動くとは?」
前:「思ったら動く。動かないと何も始まらないし。やりたいなっていってるけど、動かない人を見ると、動けばいいじゃんって思いますね。動いて動いてやってけばいいんじゃないかなぁ。動くって大事だな?」
植:動き方のパターンっていうか、小さな事から大きな事へ膨らましていくとか、そういうのってありますか? それとも今ある事に敏感に反応してって動いていく事が多いとか?
前:「動くってのは、また自分は無意識じゃないけど、本能?」
植:「本能」
前:「本能のままに動くとか、強く思った方向に動いていくのが一番いいなって思いますね」
名:それは結果を出すとか出さないとか、結果は関係なく、自分の思い入れのある方に動く。
前:「そうですね」
植:衝動に従う?
前:「そうですね。あとイメージかなぁ。イメージが強く出来る方向」
植:自分の中の……。
前:「膨らむイメージ(笑)」
名:インスピレーション?
前:「だから陶芸に進んだのも、イメージが沸いた。自分が就職して会社に入ってるイメージは全く沸かなくて、陶芸での作家でのイメージが沸いたから、そっちに行ったって感じですね。だから、考えて進むっていうよりは、動くってことかな。本能のままに」
植:無意識っていうキーワードが何回か出てますけど、それを僕は何だろうなって考えた時に、前田さんの自然さなのかな? って思って。そういう事に置き換わるのかなって思ったんですけど。ホント自然にやってる感じがあって。
前:「そうですね。作陶も多分そうですね。自然、自然にっていうか、やんなきゃって思ってやるんじゃなくって、生活のひとつの内に入っている。自然に入っている。ご飯食べるみたいに。とかかなぁ。なんですかね? 感覚みたいなことを言葉にするのって難しいですね」
植:直感に従っていくっていうのはあるんですよね?
前:「そうですね。直感、直感ですね」
植:あと流れを滞らせない為に動くっていうのもありますよね?
前:「うんうん。そうそう」
植:そんな感じを受けますね。
前:「うん」
ユ:恐れはないんですか?
前:「恐れ……」
ユ:不安。
名:不安だよね。
前:「ないー」
一同:ははははは(笑)
前:「周りの方が不安に思ってるかもしれないですね?(笑)」
名:あの子大丈夫かなって(笑)
前:「家族とかね?」
名:確かに不安はないよね? ユキくんは不安はあるの?
ユ:直感に鈍感な人もいると思うんですよ。直感がこっちだなって思ってても、色んな条件だったり、環境だったり、こっちの方が得なんじゃないとか、そういう雑念とか、本当にうまくいくのだろうか? という不安とかあるのかなって。
名:そういう意味で言ったらあるね。
植:ある。
ユ:それを振り切れるかどうかとか。前田さん見てると気持ちいいですよね」
前:「なんとかなるんじゃないかって、なんくるないさですね(笑)。食いっぱぐれたら南に行けばなんとかなるって思ってます。南の人に失礼ですけどね。うーんまぁでも、実家があるってこともあるんでしょうね。食いっぱぐれる事はない。だから周りの人に支えて貰ってるって事ですね。不安がないっていうのは。一人でやってる訳じゃないって感じですね」
名:でもそれは、つくってる時にはそれは考えないよね? きっと。
前:「考えないですね」
名:考えたらいいものはできない。それこそ雑念の更に雑念というかさ。誰かのおかげで今の自分がある、みたいな思いでやってると、多分ろくな物つくれないっていうか、そんなん大きなお世話だって思うよね? つくりたいものつくれよって思う。
前:「うんうんうんうん」
名:メリハリがあるのかな? きっと。
前:「メリハリ?」
名:考え込まないし、かといって考えない訳じゃないし、動く事を選べるっていうか。きっと無意識って言ってても全く無意識じゃないと思うんだよね? それは多分考えてるし、行動が伴わないって事はないんだろう前田さんはきっと。やっぱり最初に動くってことを決めるっていうかさ、考えて考えて考えて、考えるだけではないというか
ユ:運動神経がいいみたいですね。
名:そうだね。反射神経。頭の中と身体がつながってるっていうか。じゃまぁ、動けば良い事あるかもしれないってことで。
前:「そうですね」

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名:最後の質問ですね。今後の目標を。みんなに聞いてるんですけど、短期的でも、中期的でも、長期、老後でも、なんでもいいです。
前:「前から思ってるんですけど、最近またはっきりして、自分の空間で見せたい。というのは、箱があって、器があって、器に盛る料理があって、全部トータルで」
名:前田美絵(笑)
前:「ははは(笑)前田美絵を見て欲しい、みたいな(笑)」
名:お店って事?
前:「そういう事になるのかなぁ。そうじゃないかもしれないですけど。全体で、空間も含めて全部表現」
名:そういう事をしたい。
前:「面白い事出来たらいいなぁって思って」
名:それが出来ました。じゃぁ、その後、どうしましょう?
前:「その後ねー? あんまり先の事は考えないタイプなので」
名:だろうなとは思ったけど(笑)
前:「そう(笑)その後か?」
名:もっと先でもいい。遥か彼方の。
前:「え、生きてるかな?(笑)。うーん。自然の多い所で暮らしたいかな」
植:この蓮田よりも、もっともっと?
前:「うんうん。那須の方とかね? 普通に生活。畑やったりね」
植:その時もやっぱりつくってるイメージは?
前:「うん。つくるのはずっとやりたいですね。お婆さんになってもね。また自分の作品が変わって来るのも楽しみかな。どんなものつくってるかなぁーみたいな。今つくってる時点でこれ以上いつも変わらないだろうと思ってるんだけど、でも変わってるから、じゃあこの先もの変わっていくのかなっていうのと、どんな物つくるか楽しみですね。ルーシー・リーも手を震えながらろくろひいてるけど、あんな感じ迄やりたいですね。だから陶芸は続けていくのかな? 多分。そこに色々加えていきたいかな? 陶芸と他の物と。料理かな?
名:料理も(お店で)自分でやるんですか?
前:「できれば。色の組み合わせを考えるには……やっぱり全部自分でやりたい。でもたまに他の人に委ねてやって貰いたいってのもありですね。だから、今も展示とかで他の人に盛って貰って、観て貰いたいっていうのもありますね。どんな風にして盛るのかなっていうのも楽しみですね。どう使うとか?
名:やっぱ使って欲しいよね? 並べるだけじゃなくて。並べて綺麗に見えるのもいいけど、並べるだけだと在庫に見えちゃうよね?
前:「うんうんそう。だから渡す時に、販売する時に、がつがつ使ってくださいっていいますね。また使っていく変化もあるし、器の。それも楽しんで貰えたらとも思うし。そうですね、買って帰って、家で料理盛って使って貰って、ああいいね! って思って貰えたら最高ですね。使って貰えた時にまた何か感じて貰えたら嬉しいですね」
名:じゃ、まぁ、自分の場所をつくるってことで。
前:「何十年後になるかわからないですけど」
名:結構近いかもしれないしね?
前:「どうかなぁー。今はまだ、器色々とやりたいなって、実験したいし、まだホント試行錯誤ですね。中途半端になっちゃってもダメだしね」
植:その手掛かりとして、ブログに「アトリエ展」ってあったんですけど、それも空間を見せるってあると思うんですけど。
前:「あ、そっかそっか。ちょっと熱は冷めちゃったんですけど(笑)。でも、自分の空間で観て貰いたいってのがあって、アトリエ展もいいかなって思ったんですけど。でも最近、今のここの空間じゃないかな?。って思って来て。また別な所をイメージしていて。場所ははっきりしてないですけど。ここじゃないなっていうのは、最近思いました」
植:それも直感的なもので、別のアトリエに移った時に、降りて来るように、「ああここでやろう」って思うんでしょうね。
前:「多分次動く時は、それをやることも踏まえて探すかもしれないですね」
名:その時が来るのは待つということで。
前:「待っててください。それまで色々試行錯誤させて頂きます。イベントに出しながら」


ユ:ひとつだけいいですか? ちょっと話が戻るんですけど、前の教室で焼いてた窯からこっちに変わった時に、全然狙った色が出なくてっておっしゃってたじゃないですか? そういう道具、焼く時に使ったり、色んな道具があると思うんですけど、そういう道具で制限される事があって、それの中で試行錯誤をして近付いて行くのだと思うんですけど。僕も曲をつくってる時とか、道具はいくらでもあるし、お金出せば良い物はいくらでも買えると思うんですけど、制限がある中でやっていく面白さとかありますか? というか、今の設備にある不満とか、そこでやってみようと思う事とか、どうですか?
前:「制限、というので言えば、最後焼く瞬間は、窯釜に委ねるので、ホント色味が毎回違ったり、毎回でもないけど、思い通りに出なかったり、そこが迷い所かもしれないですね。特に注文品なんかは同じ物をつくらないといけない時もあるから、ちょっと迷いますね」
ユ:また高いやつにすれば出るって訳でも……。
前:「ないですね。でもまたそれが、すごい面白い所でもあるなとは思ってるんですけど。前もブログで書いたんですけど、緑っていうのが、夏に出た時の緑と違くって、最近出る緑が。気温の違いで窯の冷めるスピードが変わって、そこで色味も変わってくるんですが。ああ、季節によって違うのは面白いなって思ったり、自分の意図してないところだけど、違って出るのはまた楽しいかなって」
ユ:今は今で満足してある中でやっていこうっていう。
前:「そうですね」
ユ:じゃぁ、完成形じゃないけど、とりあえずの整った状態。
前:「そうですね。道具にそんなにこだわりはないのかな。とりあえず、自分の身の丈にあったもの、釜だったり、その中で色々出来る事やってこうかなーみたいな。ホームページも今、そんな感じですね。なんか、無料のなんですけど。ま、身の丈にあった」
ユ:必要な時に必要な物が出て来たら……。
前:「そうですね。広告宣伝は入っちゃってますけど、それはまだ自分の作品に納得してない所もあるから、作品にも納得したら、そこはしっかり見せたいな。そしたらホームページも変わるかな。まだホント、まだまだ実験中ですね。色んな事が。まぁ楽しいですけど」
ユ:それを楽しんでるのはすごいですね。ありがとうございます。


名:身の丈って言葉は良いなって思った。
前:「身の丈」
名:身の丈、大事だよね。僕は本当に身の丈って大事だと思う。身の丈をベースにして諦めるものは諦めろって思うかな。望むものは望んだっていいし。なんかね、それはね、具体的じゃないけど、諦めたってそれで終わりじゃないじゃん。今はこれでいいってことだからさ。それ以上のものを望めば、それはある意味、なんだろうな、仮に自分に合わない、高価で機能性が良くて、もの凄くでかいエンジンを積んでるもの、仮に使ったとしても、自分が使えないんだったら意味がない。却ってそれで悪くなる一方だと思うんだよね? 身の丈っていうのはすごく大事なものなんだと思う。そうじゃないとただ表層をなぞった様な、かっこだけの物になっちゃうかな。
ユ:身の丈を少しずつ伸ばしていくような。
名:その為には時に諦める事も必要。まだ必要ないなっていう。仮にそれがすごく自分にとって必要かもしれないとか、と思ったとしても、かもしれないならなくっていいじゃんって。そこで出来る事があるんだから。と思うね。
前:「だからまだ自分はがっつり観て貰いたいって所迄行ってないですよね? だから売り込みも最近はしてないですし、ちょっと前迄は色々やってたんですけど売り込みも。今じゃないなと思って、今は止めてるんですけど、試行錯誤中だってのがあって、自らはあまり行かないかな。だけど、色んな人に声掛けて貰いながら、試させて貰ったりとかしながら、してますね」
名:はい、という事でまとめますか。
前:「今すごいいい状態で制作してます」
名:はい。という事で以上でアトリエ訪問、前田美絵さんのインタビューを終了します。お疲れ様でした。
一同:お疲れ様でした。ありがとうございます。


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ライターうえおかさんによる「アトリエ訪問後記」も御座いますので宜しければご覧下さい。

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※今回のアトリエ訪問へのご感想は下記mailまでお気軽にどうぞ!


手創り市
info@tezukuriichi.com








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