アトリエ訪問:前田美絵 後記

【アトリエ訪問 前田美絵 編集後記】


うえおかゆうじ



「手創り市のルポ」を始めるにあたって、僕は名倉くんから一枚の企画用紙を受け取った。

その中にあった言葉に、「今僕とうえおかさんが中心になってアトリエ訪問をやっていて、そこで出会う作家さんとのやりとりをこれから円滑にしていく為に、日頃から作家さんに接して貰いたいというのもある」とあった。

今迄のアトリエ訪問は、名倉くんに次の訪問先を聞き、その作家さんを目当てに手創り市に足を運び、軽い挨拶や雑談を交わし、そして当日に向かうというパターン。他にも、アトリエ訪問当日、初対面でお世話になるというパターンなどがあった。

しかし、今回の前田さんとの出会いは違った。

まず初めに前田さんに出会ったのは、事務局でお茶を頂いていた時の湯飲み、つまり前田さんの作品だった。

その湯飲みは、深い青が印象的で、僕はその時、その湯飲みの向こう側に深海の静けさのようなものを見ていた。お茶を飲むと言う行為が、気を静めるという行為に僕は近いのだけど、気が静まると同時に、心もその海へと心地よく沈んで行くのがわかった。その静けさを含めて、この前田さんの湯飲みはあるとその時僕は思った。

そして次の日、初めての「手創り市のルポ」が始まり、そこで僕は会場の中から、前田さんの作品を見付け、ひと目で前田さんの作品だとわかった、そして前田美絵さんと対面することになった。

そこで僕は、昨晩事務局で前田さんの湯飲みを使わせて貰ったことを告げた。すると前田さんは、

「あの青は私も気に入っているんですけど、もう出す事ができないんです」

と打ち明けてくれた。その理由を聞くと、あの青は、以前通っていた陶芸教室の窯を使っていた際出た青で、次に購入した自分の窯では、何度試しても同じ青が出なかったというのだ。

そんな話を皮切りに、前田さんが陶芸を始めたきっかけや、以前テキスタイルをやっていたことなど、話は多岐に渡った。

そしてその場でルポの取材を申し込み、快くそれを承諾して頂き、前田さんとの対話の一部は9月のルポの一部となった。そして次の月からも、前田さんに会場でお会いする度、挨拶をさせて貰う間柄になった。

そんな風に手創り市で出会い、対話の回数を重ねた前田さんと、今回こうしてアトリエ訪問が出来た事。それが今迄のアトリエ訪問の作家さんとの大きな違いかもしれないなと、今に思う。僕と前田さんの間には確実に手創り市があった。

そしてアトリエ訪問当日、インタビューが始まると、前田さんの口からは刺激的な発言が多く胸を打った。

「動いて動いて動いて動く」

常に手を動かしつくり続け、心を惹き付けるイベントがあれば出掛けて行き、刺激を貰いながら流れ続ける。不安もないし、今迄に立ち止まった事はないと言い切る彼女のそのしなやかさに、僕も、そして名倉くんやユキくんも同じ様に、驚き同様、新鮮さを覚えたと思う。

そんな前田さんに、インタビュー終了後、僕は編集後記用のインタビューを少しの時間させて貰った。

話題は、前田さんが僕のルポやアトリエ訪問に対してどういった感想を抱いているかから始まり、前田さんはルポに対し、

「他の作家さんがどう考えているのか? そこから気付くことがある」

という回答をくれた。そして、

「手創り市は試行錯誤の場。周りの作家さんを見ていて勉強になりますね」

と続けた。

僕は聞いた。

「前田さんが他の作家さんの作品を観る時に、何か気を付けているポイントみたいなものはありますか?」と。

彼女は答えた。

「観ていてぐっとくる、シンプルに心が反応する、そういう作品に惹かれます。深みのある作品かな? 自分も、自分がいいと思っている感じで深みあるものをつくりたい。どんどん作品の中に入り込んでいけるような」と。

前田さんの作品には、その深みがある、と僕は感じていたのでその事を伝えた。

前田さんのアトリエにお邪魔する前、僕ら四人は蓮田にあるOkraというカレーカフェで落ち合ってランチをしたのだが、そのカフェでは、前田さんの作品がカレー皿や珈琲カップとして使用されていたのだ。

そして僕は、緑色の珈琲カップを覗き込んだ時、そこに田園風景、草原のようなものを心の目で見た。その事を前田さんに伝えた後、僕は一番初めに出会った、前田さんの青い湯飲みの事も伝えた。

「僕はあの湯飲みに深海を見ました」と。

前田さんはそれを聞いて嬉しいと言ってくれた。

「自分の作品に風景や奥行きを感じてくれるのは」

と。しかし、名倉くん、ユキくんは、

「うえおかさん、また始まった!」と爆笑し、そして、

「大きく出たね・・・それこそうえおかさんの身の丈に合ってない台詞だよね」

と言って、また笑ったのだった。

どうやら今年も昨年に続き、「身の丈・等身大」という言葉が僕のキーワードになりそうだ。「等身大」を地でいく前田さんを想いながら、そんな事を今に思うのでした。


・・・・・


*「前田美絵・アトリエ訪問インタビュー」はこちらまでどうぞ。


※ご意見ご感想は下記mailまでお気軽にご連絡下さい。


手創り市

info@tezukuriichi.com








Profile
twitter
New Entries
Archives
Category