第九回アトリエ訪問 こばやしゆう

第九回アトリエ訪問 こばやしゆう
 
話す人:こばやしゆう→ゆ
聞く人:名倉→名 ライター:植岡→植 サントラ制作:ユキ→ユ


今回のアトリエ訪問インタビューは、アトリエ撮影後、こばやしゆうさん宅からすぐ近くに
ある松林で涼みながら行いました。
始めは何気なくも色の濃い雑談から。
そして徐々に質問の方へと入っていきます。


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ゆ:「朝、明るさでひゅっーて目が覚める。でも朝のうちが一番仕事出来るかな」
名:そうなんですよ。朝飯前?
ゆ:「朝飯前というか、私一日一食位しか食べないから、夕方三時過ぎになるとお腹空くかな、
  やっぱり。朝、珈琲二杯くらい飲むでしょ。レーズンを一口食べるでしょう。で、割と
  ガッーと仕事しちゃうから」
名:僕もそうですね。一食って事はないけど、くだものをひと口ふた口食べて。お昼過ぎに
  腹へってきたらちゃんと食べる。
ゆ:「そう、お腹グーって言ったら食べる感じかな、私も。誰が三回って決めたの?
  でもその時間しか食べられない人はしょうがないですね」

ゆ:「今、農業始める人達も多くて、出来たものをどういう場所でいかに売るかっていう事を
  最近二人位に聞かれた。その方はもともとデザイナーなんだけど、すごく対極な仕事
  でしょう。忙しくて、クライアントがいて、その要求に合わせて仕事をするっていう
  追われる仕事と、この自然に実るものと、自分ととっても平等な関係でいくのが農業みた
  いなんだって熱く語ってる人がいたけど、大変だよね?代々農業の人でないと大抵どこか、
  途中で辞めたくなる人達も多くないですか?」
名:兼業とか? 今のシステムになると戦後六十年とかそういう風になると思うんですけど、
  そうじゃなれけばものすごく長い時間をかけて積み重ねだから、その中で今新しく始めよ
  うと思ったら、既存のルールとかシステムは頭の片隅に置いておいて、あとは自分で流れ
  をつくり出さないとたぶん続けられない。本当に代々何百年ってやってればそうじゃない
  んでしょうけど。
ゆ:「そうですね。それで出荷するとなると自給自足の為にやるのとは、
  同じ農業かと思う位、本当に差があるものね」
名:確かに全然違うものですよね。
植:ゆうさん、送って頂いたエッセイにあったテトラポット、あそこですよね?
ゆ:「テトラが出てた? 最近は絵日記を書いてるからエッセイは書いてないけど、エッセイ
  の頃は、毎日起きてすぐ、一個ずつ書いてました」
植:エッセイだったら、書こうと思う事って、毎回どういう風に決めていっているんですか?ゆ:「事実と自分のやった事、経験。例えばまず自分のやった事を書く。朝だから昨日の事
  でもいいのだけど。そこから始めるんですよ。一番最初の一行はそれ。結局きれいな言葉
  で書くことはいくらでも出来るし、でも本当に気持ちを打つ言葉っていうのは、その人の
  言葉でしかなくて、その言葉っていうのは、自分のやって来た、やった、自信のある言葉
  でしかないでしょ?やった事だから、自信があるから、パン!と言える訳ですよね?
  それが一番なんですけど」
植:僕は以前ファンタジー小説も書いたりしていたんですけど、最近、リアルな物を書く頻度
  が増えて来ていて、自分がやった事とか、体験した事を織り交ぜる様になってから、より
  肉感が出る様になってきた様には思いますけど。
ゆ:「なるほどね」
植:書き易いし、ちょっとした事でもいいんですよね。
ゆ:「ものすごいちっちゃな事」
植:そうですね。その小さな波に面白味があるというか。それはすごく感じますね。
ゆ:「だって、普通の人達が暮らしているのって、普通なんだから、その普通の部分に共鳴
  出来なければ、なんか、この人毎日すごい事ばっかり起こってるんだなって、自然ぽく
  ないですよね?」
植:はい。
ゆ:「そのちっちゃな事。最終的には気づき。気づく事でしょう? 書くことによって気づく
  部分があって、話してても気付く部分があって、ちっちゃな気づきを独り作業をして
  書いていく。ファンタジーって難しいですよね?」
植:はい(笑)
ゆ:「いわゆる日本人が思う、ファンタスティクなファンタジー。何か夢的な、そういうもの
  じゃなくって。本当のファンタジーってむちゃくちゃ深いでしょう?下手をすると帰って
  来れなくなる位の、難しい部分ですよね?村上春樹が書いてる現実と、今は現実だけど
  実はこれこそが彼の小説だっていう、アバターじゃないけど、ジェームス・キャメロンの
  作品みたいに、現実だけれども、超リアルな部分とそうでない部分を、すごい交差させて
  るじゃないですか?そういう物はすごく大好きですよ。そんなに私は本を読んでないけれ
  ど。あれ、さっきの話題なんでしたっけ?」
名:気づき、ですね。気づきについては僕よく考えますよ。
  普段なんでもない事とか、それこそ最近の事だったら。
植:キツネ?
名:そうそう。職場の亡くなった社長の息子が夏休みでさ、毎日邪魔しに来るんですよね。
  遊びに来るんです。で、仕事しながら遊んでて、その時、子供の遊びで、手でつくる影絵
  あるじゃないですか?定番のキツネ。キツネって、影絵でやってキツネってわかり
  ますよね?それがお約束みたいなとこですけど。でも、本当のキツネの影はキツネとは
  わからないですよね?影絵のキツネはキツネとわかるのに、本物のキツネの影は影だけ
  見てもキツネとはわからない。それって何だろう?って思ってさ。
ゆ:「でもこれはキツネって決まってる訳でしょう?(右手でキツネの影絵をつくる)」
名:そうそう。でもそれもその子との些細なやり取りの中で見過ごせば見過ごすし、見付けた
  所で何がある訳でもないけれども、そういう事をふとつかめた瞬間っていいなと思うし、
  そこで何故だろう?って考えるから、それが面白いなというか。
ゆ:「特に子供はね、ちょっとしたおしゃべりって面白いかも。何の作為もなくポロっと出る
  言葉だから。考えてはいるんでしょうけどね。少ないボキャブラリの中で話しするから
  わかりやすいんだよね。大人でもホントに頭のいい人は、すごく相手をみて、その人の
  レベルに合わせてちゃんと噛み砕いて話してくれる人がいるんですけど。
  私が会った人はね、禅の人だったんですね。三年前に出会って、禅というものを改めて……  言葉は知ってても本当の事は知らないでしょう。その時に、座禅の合宿があるって言う
  から私が『やってみたい』って言ったら、『あなたは禅の世界に入らない方がよろしい』
  ってきっぱりと言われたのね。『なんで!? 』って言って。思い上がりとかそうじゃなく
  て、その人の事をよく知っているなら止めた方がいいよって言えるでしょう。
  でも知り合って間もない時にそう言ったから、『あ! すごい人なんだ』って思って。
  何故かっていうと、後で自分でよく考えてみたんだけど、私はこういうつくる仕事をして
  て、それはどこでモノが生まれてくるかっていうと、あ、なんかこのフォルム嫌い、やだ、
  こっちの方が好きかも。説明は出来ないけど、自分がいい形、なんとなくしっくり来ると
  か、気持ちいい形とか。好きか嫌いで決める訳でしょう?禅はそれはダメなんです。
  とにかく無になること。ゼロになる事なんです。限りなくゼロに近づく事。だから好きとか
  嫌いとか分けちゃダメなんです。
  こういう仕事をしているから、禅を追求していこうと思うと、グラグラになって土台から
  崩れちゃうから、自分の今までの価値観はなんだったんだって。結構私、二ヶ月位グラグラ
  してたなぁ。それは自分の中で咀嚼しようと思ってしてた事で、『好きとか嫌いとか
  言えないんだったらどうするのこれ!?』っていう感じになったんですけど(笑)。
  そういう世界なんです。ああいう人に人生の中でもっと早く出会ってたらすごい違って
  ただろうなって。
  (話は飛び)
  『場の空気を読めよ』ってこれ、とっっても日本人的でしょう?」
植:わかりますよ。一時期KYって言葉も流行りましたよね?
ゆ:「私、この言葉不思議って思ったの。空気を読めよってわかるんだけど、日本人の感覚と
  して和を大事にする日本人の文化としてわかるんだけど、じゃ、個人、個人はどうなるの
  って思うんです。どうなるの?」
植:どうなるの?あぁ、禅問答みたいになって来ましたね(笑)
ゆ:「あっはははは」
植:大丈夫、大丈夫、今のは冗談です(笑)えーと個人個人。
ゆ:「個人ってどんなんですか? 植岡さんにとって」
植:どんなんですか?個人ってどんなんですか? 自分にとって個人とはどんなものですか
  って事ですよね?
ゆ:「はい。私はそれ子供の頃からずっと考えてるんですけど」
名:僕は好きか嫌いか。あと、自由。それだけですかね。
植:好きか嫌いか。自由。それが個人。
名:それが相対する人にとっても、自分にとってもそうだし。それで成り立ってるものかな?
植:僕はなんか、好きとか嫌いとかそういう言葉に置き換わる前の感覚の固まりみたいなもの
  って自分を捉えてますね。それが個人かな。
ゆ:「個人主義って言葉があって、みなさんは違うと思うんですけど、一般的な個人主義の
  イメージは、すごいいいイメージじゃないかもしれないでしょ? もしかして」
名:一般的に使われる文法上では、ですよね?
ゆ:「エゴイストじゃないんだけど、全然。どちらかというとそっちの方向ですよね?」
名:蛸壺みたいな感じですよね?みんなそれぞればらばら。この言葉を使う時は。
ゆ:「使う時はね。ほら、名倉さんはすごい中立の人だから、そうやって使うけれども。
  そうじゃない、すごーく普通の人達が使う場合って言うのは、個人主義っていうのは
  苦手的な言い方でしょ?私がどうして個人の事を子供頃から考えたかというと、例えば
  左利きで、左で物を持っていると、席の位置によって、隣の人に腕が当たるんですよ。
  で、隣の子といつも喧嘩になるのね、腕が当たるから。黒板に字を書くでしょう?
  その時、すごい仲良しの子が左手だからって笑ったんですよ。すごい笑ったのね。
  何かそういうのって、劣等感じゃないですけれども、たったそれだけの事で人と違うみた
  いな、ハンディキャップの人達の気持ちがわかるんですけど、そういうので、人との違い
  ってものをすごくすごく思ったのね。何かにつけ。
  それで旅をする、特に西アフリカなんですけど、やっぱり差別がある訳ですよ。
  肌の色が違う。白が一番、優性であって、黒い人達は劣性。黄色い人もダメなんですよね。  そういう差別主義的な事も自分の経験としてすごく感じるのね。ちっちゃな事なんだけど。  そういう所で、私にとっての個人は、個人主義っていうのは、「すごくあなたを尊敬しま
  すよ、あなたを尊重しますよ」っていう、個人主義なんです。
  で、みんなそれぞれお互いを尊重し合いましょうっていう個人の主義なんです。
  だからその、身勝手な個人主義とは違うんですね。
  それを大人数の前で言った時に、『私は個人主義です』っていうとすごく語弊がある。    色んな考え方の人達がいるのだから。で、質問の中にあるつくる事に繋がって来る話し
  なんですけど、どうしてそれをつくり始めたかっていうのは、ネガティブじゃないんです
  よ。選択して選択して行った結果、これしか残らなかったっていうのがまず一つと、これ
  なら出来るというのが一つあります。
  水の怖い人、海の怖い人が、潜水士になれないのと同じで、苦手なものはみんな敢えて仕事
  にはしない訳で。自分の能力をわかってる訳じゃないの全然。わかってないけれどもそれ
  しかなかったって言うか、楽観的かもしれないけれど、そこの場所にいる事が一番自分の
  ポジションだなっていう」
名:はい。私でいられるって事ですよね?
ゆ:「そう。一番自分的な。そういう場所っていうのにいつ気づいたんだろう?
  ふふふ。そういうのがありますね。
  だから、出来るって核心はないですけど、それでもやっぱりこれしかないんだろうなって
  始めたのはこれかな」
植:それが自分の中で始まったとか、その居場所が自分の中で明確になった瞬間って、すごく
  生き易くなったっていうのはあるんじゃないですかね?
ゆ:「たぶん」
植:僕の場合なんですけど、僕は揺れてる時期が長かったんですけど。
ゆ:「私もだよ」
植:小説を書き始めて、これでやって行こうって思った時に、すごく生きるのが楽になったん
  ですよ。ゆうさんはその辺は?
ゆ:「楽になったってその境はないかもしれない。比較の対象ですよね?
  自分のステージじゃない所にいつもいたんだなって言うのは後になってわかるんだけど、   ここは私のステージじゃない、ここも違う、そういうのがあって、あ!ここだ!っていう
  のを見つけた訳でしょう。楽になったっていう言い方かぁ。うーん。そんなに苦しんだ
  かな私?」
植:自然に流れて行った?
名:流れの中でああじゃないか?こうじゃないか?考えてくうちに、ここだなっていう。
植:辿り着いた?
名:辿り着いたっていうか、そこにいた。チェンジじゃないんじゃない?
植:ああ!チェンジじゃない。
ゆ:「ああ。それはそうなんですよ。私は就職した事ないし。確かにそうなんです。
  でも今から別の仕事をするとなると、すごく方向性考えますね。これ、これ、これって。   今は好きでこれって思ってるからそんな気持ちはないですけど、今から、好きな仕事から
  別の仕事にってなったら、ホントにチェンジですけど。
  好きな事してると、全然、暑くないんですよ。朝涼しいでしょ? で、昼になるにつれて
  だんだん暑くなっていくじゃない。でも入り込んでいるからどの位汗が出てもわからない
  んですよ。それと同じじゃない?どんなに暑くても気が付いてないんですよ。
  あとになって、喉からから、へとへとどうしようっていう感じだけど。
  例えば、人の苦労話を聞きたい御年配の方とか、思いやってそう言うんでしょうけど、    とても大変なご苦労があったんでしょうねって言う人もいるでしょう。世の中には。
  でもホントに好きな事やってるし、全然苦労って思わないでしょう?ホントに好きだっ
  たら」
植:はい。それはわかりますね。書いてる瞬間とか。
ゆ:「そうそう。振り返ってみたら大変な事をしてるかもしれないけど、本人何も思ってない
  と思うんですよ。私思ってなかったもん。
  運が良かっただけですって今はそう思うし、ふふふ。
  つくる事の話しってそれはもうこれだけって言えないですよね?」


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名:じゃ、質問始めます。
ゆ:「始めてください」
名:アトリエ訪問ですけど、これは趣味なので。好きでやってるだけです(笑) なので、
  何かそこに目指すものとかはなくやっています。まず最初にお聞きしたいのが、この場所
  をつくったのはいつ頃ですか?
ゆ:「2001年でした」
植:何月ですか?
ゆ:「春。冬の間につくってねって決めて、一ヶ月でつくって貰って、だから四月にはここに
  入りました」
名:何故この場所を?どういう風に見付けたのですか?
ゆ:「前段階がすごい長いんですけど、日本地図を広げて、上は日立の辺りから」
名:茨城。
ゆ:「太平洋側をすべてトレースして、下の紀伊半島迄。バイクとか車で全部見て。
  何年も掛けて。役場に全部手紙を書いて、空き家とか、今はアーティスト村とかあるけど、
  最終的に静岡が一番住みたかった場所だけど、最後に決まったのがここだった。
  何故私一番に来なかったのかなって思った。自分の中で静岡ってすごくリゾート的な、
  まだ物理的にもお金がなくて高くて住めないわって思っていた所があって。
  で、全部探して、最後の最後に一番住みたい所、ここから5キロ位の山の中に住む事に
  したんですけど。
  その前は愛知県に住んでいて、窯を持って仕事を始めた頃だったんですけどね。
  で、その頃に友達が、ブギーボードやってて、私もサーフボードを譲って貰って、
  サーフィンを始めて。こからだと二時間以上掛かるんですね。
  で、どこで住んでも良いんだっていうのがあって、もっと海の近くに越そうと思って」
名:それでこの場所を見付けて?
ゆ:「最終的には、千葉も候補でいい所があったんですけどね、最後にここだったんですね」植:ここに初めて来られた時ってどんな事を感じられました?
ゆ:「前住んでた山の家に住んでた時、毎日ここにサーフィンに来てたんです。
  とりあえず静岡に住んで、その後海辺に住もうっていうのは最初からあった事だったんです
  けどね。で、山の家って言うのは茶畑の中なんですけど、来た時にここが駐車場になってて
  砂利が敷いてあって、あ!ここ!って思って。バリケードがあって、そこに建設会社の
  名前が入っていて。それがそこのすぐ角だったんですよ。その足で、(タンクトップと
  短パンとビーサン履いて)社長はいつも居ないのに偶然にいて、話しを聞いてくれて、
  『あそこだったら貸してあげるよ、隣の人が持ち主だから話ししてあげるよ』って言って。  そしてここ貸してくださいって言って。
  で、お金がないからまず山の家をなんとかしないといけなくなって、山の家を買ってくれ
  る人がいたもんですから、こっちに越すことが出来たんですよね。
  とても大変な色々な事がありましたけど。
  まず静岡にじわじわと近付いて来て、今はもっと崖の端にある様な場所に住みたいっていう
  イメージがあるんですけど」
名:今の工房と住居はセルフビルドですか?
ゆ:「そうですね。外側は建てて貰って、中をいじっただけなんですど、床張って、天井張っ
  て、壁張ってっていう」
名:その後、暮らしながら付け足していったり。
ゆ:「はい」


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名:では次行きます。生活と制作の場が同じところにありますが、普段の一日の流れを教えて
  ください。
ゆ:「四季によってそれは違うんですけど。外が明るいか暗いかによって起きる時間も変わっ
  て来ます。冬は六時過ぎだもんね、明るくなるの」
名:そうですね。
ゆ:「夏は明るくなるの、四時ちょっと過ぎ位かな?薄明かりの頃に丁度いい感じでさーっと
  目が覚めて。先週、七月の前半位に、ずっといいタイミングで、四時二分位とか、
  ほわーって目が覚めるんですよ。いい感じで目覚めてました」
名:朝起きてその後は?
ゆ:「夏だったら海に行きますけど、今は鰐日記(わにっき)というのを書いているので、
  それを書いて。珈琲を二杯飲んで、庭の手入れをして、草がすごいんですよ夏は。だから
  それを取って。黒苺が出るんで、毎日少しずつ採って、オクラさんが実ったかなって、
  オクラさんを採って、それでその後、そのまま仕事に突入しますね。午前中、中が暑く
  なるんで、午前が勝負ですね」
名:早い時間帯が勝負。
ゆ:「時々、過ぎてやってる時もありますけど」
名:そういう時は喉がカラカラになって気付く(笑)
ゆ:「40何度だって言っても、へーっとかって言うんだけどみんな、想像がなかなか付き
  難いでしょう?」
名:そうですね。想像は付き難いけど、冗談じゃないなって思う(笑)
ゆ:「あのね、感じとしてはね、私よく旅の時に思うんだけど、『あの状況と同じ』っていう
  のはわかりますね。あそこの村を歩いている午後一時位の感じと同じだなーって。
  地上10センチ位を、地面に足を付けず歩いてる感じ」
名:わからない(笑)
植:熱気でって事ですよね?
ゆ:「うん。もう頭がボーっとしてるんですよね、きっと」
植:ぼあーん、ぼあーんって感じですかね?
ゆ:「そう。現実感がないんですよ。地面を踏んでるっていう。ふわーんっていう。
  空中移動みたいな。飛ぶ夢はよく見るんですけどね。それにも近いかな?
  夢覚えてます?」
名:夢、僕は覚えてないですね。
ゆ:「朝起きるとぱっと、あれしなきゃって思うんでしょうね」
名:ぱっと起きた瞬間、ぱっと動きますね。
ゆ:「動く、でしょう。だから瞬間に忘れちゃうんです。そういう時はやっぱり覚えてないん
  ですよ。明日の朝これやらなきゃって時は、忘れますね。昼間、気の抜けた時に一瞬だけ
  かすめるんですよ。その夢が。というので一瞬思い出す事がある。そういう時、すごく
  いい状況。自分の中で。とっても自分的に生きてる時間の流れだと、一日五つは気付くん
  だそうです。何かに」
名:何かに気づくって意味は、ああ、そうか、って意味ですよね。
ゆ:「そういう気づきがあるんだけど、夢を覚えてるって事もとってもいい状況」
植:気づきのひとつの様なものに数えられるって事ですよね?
ゆ:「どっちが現実かっていうのは、もうどっちでもいいんですよ。
  夢の中だってちゃんと自分なんだから。夢の中で続編があるんですよね。
  昨日見た夢の続きがあったりする。街があるでしょ?ちゃんと」
植:あります僕も。
ゆ:「そういう続きもあるから、どっちも自分だと思っているから、すごく二つ人生があって
  とってもいい感じがする。それで、ここで手仕事はするんですよ、風に吹かれて。
  割とどこにでも自分の場所をつくれます。それは、一ヶ月の旅だとしたら、最終地点は
  ここ迄行こうかなって決めます。その道中何も考えてないし、行きと帰りのチケットしか
  持ってないので、それはどうにでもなるでしょう?どういうルートでも行けるし。
  とりあえず、ここにしようかなっていうのがあるから、どこに寝るってのも決まってない
  です。バス停とか乗合タクシー場のそういう場所の隅とか、割とここって決めたら自分の
  世界になっちゃう。
植:自分の場所になるんですね。
ゆ:「そう。ここも大事なとてもいい場所ですね。スペシャル空間ですね」
名:自分の居場所をつくるってすごく大事ですよね?僕もそれ意識しますよ、どこに行っても。ゆ:「で、ここで手仕事して、海に行くか、ほぼ毎日プールに行ってるんですけど、夏休みは
  子供達でプールが一杯なんで、殆どこっちで泳ぎます。夕方は、夏は本当に良く本が
  読めます。他の季節よりも一番いいかな。で、暗くなる位迄ここにいて、食事はお腹が
  空いた時しか食べないので、泳いで帰って来て、早目に夕方位から食べて。
  無理に窯を焚いたりしないんですよね。もちろん展示会の前だと、ぎゅうぎゅうしたりは
  するけど、それ程に寝る間を惜しんではしないけもしれない」
名:常にやらなきゃやらなきゃって事はない?
ゆ:「そうですね。絵を描いてるでしょう?だからとってもいいバランスなんですよね。
  例えば、土の仕事だと立体ですし、絵は平面でしょう?このバランス、まず、いいですよ
  ね。土を乾かす間にちょっと絵を描くって事もいい。冬なんか特にいい。あと、土の色
  なんですけど、焼き上がった時白か黒のモノクロなんですね、色んな色はあんまり付け
  ないですね。絵は描くかもしれないけれど、色は割とモノトーンかな。
  土の仕事と、絵を描くことはすごく大事な事かな。それは、暮らしてく中で一つの
  キーワードみたい、バランスっていう言葉が。どっちにしろ、一人で仕事して一人で完結
  する訳でしょう。例えばデザイナーの仕事みたいに誰かと関わらないで、最後まで自分
  一人でやるので。一人で暮らしてるというと、割といくらでも偏る事が出来るでしょう?
  究極、ぐっーと偏ってもいいじゃないですか?それでやっていけるんだったら。
  自分の心地いい人達ばかりで、会話したりとか、集まったりとかっていうものそうなん
  だけど、無理に気の合わない人といる必要もない訳なんですけど、自分との違いを知るっ
  て意味では、自分と違うジャンルの人と話しをするってめちゃくちゃ楽しくないですか?
  楽しくない?」
植:楽しいですね。
ゆ:「たまにでいいんですけどね、ストレス溜まるから(笑)。
  例えばトライアスロンの仲間達とかたまに話したりするんだけど、今まで団体とか、
  そういう所に所属するとかすごく自分では好きじゃなくてやってないので、初めてここに
  来てトライアスロンのクラブなんですけど、クラブっていっても何の規制もない名前だけ
  なんですけどね。そういうので知り合って、色んなジャンルの人達がいるでしょう?
  それは結構面白かったかな。比重としてはおじさん達とか多いですから。時々野獣に
  なっていいですけどね(笑)」
名:野獣なんですか(笑)
ゆ:「野獣ですね(笑)」
名:どういう風に野獣なんですか?
ゆ:「だって彼等ってのは競技としてやる訳ですよ。
  私のトライアスロンはあくまで私の個人だけですから。
  スイムがあがってから次はバイクですから、最後のランの時に私はパフォーマンスがしたく
  てやるんですよ。それがしたいからやるんですけどね。それが出来ない時は行かないんです
  けどね。最後のランの時に日焼け止めを塗って、アパッチして、かぶりものをして走るんで
  すけど、カメラを持って走るのね。各ポイントにスタッフの人が立ってて、その人達に
  カメラ渡して、写真撮って貰うの。コースを少しバックして。走ってる所を撮って貰うの。
  いっぱい。そうしてずっと行くんですよ。制限時間が三時間半から四時間だとしたら、
  その一杯を使いたい訳。ラストランナーを目指して。後ろに人がいたら、先に行かせる
  くらい。私が最後なんだからって(笑)」
名:トライアスロンってそういう精神ですよね?最後の人を讃えるというか。
ゆ:「そんな精神だっけ? 知らないけど。私は制限時間一杯なんだけど、野獣の人達は、
  競い合うのも自分の能力を高める為なんで。仲間同士で、自分の方が速かったらビールを
  二本とか、そうやって競争するのが好きな人がいるんですね。子供に「勝(まさる)」
  っていう名前を付ける様な人で(笑)。
  ある時、行ったらマーシャルが名前を覚えていて、
  『ゆうさん、今度あんな事したら退場だよ!失格だよ!』
  っていきなり言われて。そういうのをふざけてると思うんですよね。
  でも、トライアスロンって最初始めたのって、各それぞれのアスリートが、スイマーと
  バイクの人とランナーが、一緒にやったらどう?って言って始まったって聞いたんですけ   ど、そういう元々のノリなんですよね。楽しむ為のものじゃないですか、あれって。     で、日本人はとても真面目な人達なので、選手の為の大会みたいになって来ちゃって。
  で、どんどんやらなくなっちゃったんです。面白くないから。
  そういう色んな職種の人達が集まる所でたまに話しするのもすごいいいですよね。
  やっぱり御年配の人達も多くて、ものすごく超ポジティブなんですよね。
  歯を折ったり指をなくしたりとか。全然めげない人達です。可笑しいの。
  それは、何が起こっても悲壮感ゼロですよね。大丈夫かなって(笑)。
  そういう人達の話しを聞けるのはすごい面白い」
名:毎日の生活の中でそういう時間っていうのは、ものすごく意識する訳じゃないけど、
  自分の中で楽しい位置というか、自分の時間もありつつも自分とは違う人達との対話。
ゆ:「うん。たまにだったらいいと思います。それは自分の入りこみやすい所から、ちょっと
  引っ張り出してくれる事においては。それが私の中でのバランスにもなる訳で、すごく
  必要かもしれない。究極行っちゃいますよね、こんな好きな事ばっかりやってたら。
  例えば八百屋さんだったら、市場に行ったら色んな人のやり取りとかあるでしょ?
  そういうのがひとつもないから。」
名:そう考えたら僕の場合、職場では常に人とのやり取り、相対しかないですけど、職場から
  離れて帰って来ると、それが全くないですね。人との会話を求め探したりもしないし。
  僕にとって今の職場にいながら別に好きなようにやるのは凄くいいバランスがいいですね。
ゆ:「あえて、人とおしゃべりしたくて、人を求めていくのは皆無かもしれない」
名:そう。だから、付き合いのために何かをする事もないなーって。
ゆ:「孤独こそが最大の友っていいますものね。それはすごいわかりますよね」
名:そういう時間がないと人の事もわからないと思いますよね。
ゆ:「それはきっと多分、一杯人と関わってる人なんかはそうだと思います」

名:全然話変わるんですけど、ここの夏の時間もいいですけど、冬の時間も気になるんですよ。
ゆ:「ここ?」
名:いいだろうなって。当然寒いでしょうけど。
ゆ:「朝、寒い時に、キーンって耳が千切れそうな時に走るの大好き。朝、寒い時に走る事は
  しています。とってもエコロジーでいいと思う。身体の中から温まって」
名:住まいが、ゆうさんの所って天井が高いじゃないですか?冬はあの中で寒気を蓄えてると
  いうか、あると思うんですよね。それが却って広いから、その寒さが気持ちいいだろうな
  って感触があそこにいてありますけどね。暑い時は暑いし、寒い時は寒い。
ゆ:「道路の向こうに住んでる人の所は全然凍らないんですけど、うち凍りますよ。
  水瓶張ってあるから、風で凍るんですよね。『えー! ここが凍るの!?』ってみんな
  びっくりするけど。ここはとにかく寒い事は寒いんですけど、浜を歩くでしょう? 
  冬の寒い時なんかは。良く歩くんですよ。夏よりも歩くかもしれないんですけど。
  気持ちいいんですよ、そのキーンとした感じが。  ただ風の日なんて、砂がバシバシに
  当たって、全身にバシバシ当たって、全然目なんか開いてられない。寒いは寒いんですけ   ど、ちょっと寒さプラス激しさがあるでしょ?
名:海風がありますもんね。
ゆ:「激しいですよね。穏やかな日もあるけどだいたい風が強いから」


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名:では次いきます。普段、制作をしている時に、どんな事を考えますか?
  例えばゆうさんの場合だと、絵であったり、器であったりそれぞれ違うと思うんですけど、
  その辺りはどうでしょうか?
ゆ:「つくって入ってしまったらもう考えないです。つくってる時?」
名:制作している時。
ゆ:「考えてないです」
名:何も?
ゆ:「うーん、ただこの形がいいかな悪いかなって、心地良い形かな?気持ち悪くないかな?
  って。それしか考えてないです。絵だってそうですよね。何にも考えてないですよ。
  入っちゃったらね。だから喉渇いたのもわからないし、終わって一時間位経って初めて
  『お腹が空いてたんだぁ』って思うし。考えてます?何か?例えば仕事をやってる時?
名:他の事を思い付くとかはありますよ。まったく目の前に関係しないことを。
  でもそれは考えてるとは全然違うから。
ゆ:「考えたらね、手が止まるんじゃないかな?」
名:うん。
植:僕の小説とかの場合は、流れです。次に連鎖させていく感じです。それは自然な連鎖で、
  考えてるとはまた違うのかなぁー。でも、一旦書き終わった後に構成し直す時には考え
  ますけど、一発目、入っている時にはあまり考えてるという言葉とは当てはまらない
  気がしますね。
ゆ:「だから時間の経過がないんですよね?時間が止まるってそういう事でしょう?忙しい時
  ほど、時間が早かったって思うんですよね。不思議な事に。ホントに自分が満たされて
  ハマってつくってる時って、ここ12時と4時と5時とサイレンが鳴るんですよ。
  で、夕方にサイレンが鳴った時に『あれ?お昼かな』って思ったんですよ。
  時間の流れが止まるって事は正しくその事なんですね。そういうのがあるから、あとに
  なって、『あ、早かったな』っていうのは言葉であって、自分の中では止まってるから
  すごい長いんですよね。つくってる間の時間っていうのは、停止した時間ですよ。
  停止してませんか?
植:停止というか、時間の概念のない世界で書いてる。
ゆ:「そうですね。概念はないですね。そうなるとね、夜見る夢の中もね、時間はない訳です
  よね?その辺で、夜見る夢と現実とは似てるなって思うんですよ。つくってる時って時間
  止まってるし」
植:僕もそれは思います。
ゆ:「あとになって、もうこんな時間とは思うけども、ものすごくぎゅーとした時間というの
  は感じますけど」

名:例えば、スランプみたいのってあるんですか?手が動かないとか?
ゆ:「それはね、書かなきゃいけないとか、じゃないですか?しなければならないと思ったら
  スランプじないですか?そうすると無理にやっているって事だから、それいくらやったって
  ものを書くにしたって、絵でもいいけど、エッセイでもいいけど、あとで絶対に気に入らな
  いんですよ。気に入った試しがないから、どうせこれ後で書き直すんだからって事で。    最近は学習しましたので(笑)やらないですね。だからスランプがないって言い方は
  ちょっと違うかもしれないけれども、スランプになりそうな時には最初からしないですよ
  ね。時間を置きますよね」
名:スランプを寄せ付けない、ですよね。
ゆ:「寄せ付けないっていうか、学んでる、学習したかな。距離を置くって事はあるの。
  つくってる時に何も考えないっていうのはあるんだけど、ちょっと離れてみるって事は
  とても大事な事。例えば夜仕事をしないっていうのもそれなんですね。
  電気を点けて仕事はしないんですね。何故かというと、例えば立体の物は影が出来るから。  あちこち電気点ければ影は出来ないかもしれないけれど、それはとっても不自然な事で
  あって。影が出来るとまず、手の動かし方が変わって来ます。そういう時には雨だったり
  曇りだったりとか、そういう時はしないことにしています。一年間にあまり出来なくなっ
  ちゃうのだけど(笑)
  で、距離を置くっていうのは、例えば夜書いたものとか、朝起きて読むと気に入らないん
  ですよね。エッセイとか。だから、ものを書くにしても、朝はやっぱりいいかな。絵はね、
  昼間に描いても、全部が気に入らない訳じゃない。どこか一部分が気に入らない、どこが
  違うのか、どこが自分にしっくり来ないのかわからないから、とりあえず消さないで置い
  ておこうって一週間位ほっておくんですよ。大きな絵だったりすると、アトリエの部屋の
  中から見える場所に置いておく。で、必ず出入りするからそこら中に置いておくんです。
  絶対目の端にちらっと入るんですね。ずっーとどこか引っかかる場所があって、『あそこ
  だ!』ってわかるんです。そこを他の色に変えてみたりして。そうするとすごくしっくり
  する。そういうやり方はします。どこが自分に違うのかはわかないので、距離と時間を
  掛けて作品をみるというのは
  あります」
名:寝かしておくって感じですか?
ゆ:「そうですね。発酵させておくって感じかな」
 
 
ここで一時休憩。
ゆうさんが一旦家に戻り、飲み物の補充と深い黄色をした南瓜のケーキを差し入れてくれまし
た。ゆうさん曰く、このケーキは南瓜しか材料に使ってないとの事。その風味たっぷりの南瓜の
ケーキを頂きながら、かたやユキくんは、『海にはこれ!』という訳で持参した小豆色のウクレ
レを鳴らし、みんなの笑みを誘いました。特にゆうさんは盛り上がり、「小学校の頃、親にウク
レレ買ってって5000回位言って、買って貰ったのに全然弾かなかったの〜(笑)」と思い出
話しを語ってくれました。そしてユキくんに、「あれ弾ける?これ弾ける?」とリクエストの嵐。しかしユキくんは、残念ながらどの曲も知らず、「自分の曲です」と言って、その曲をポロ
ンポロンと奏でてくれたのでした。
松林を爽やかな風が抜けていき、ウクレレの音色がその風に遊ばれます。
 
 
そしてここからアトリエ訪問インタビュー、後半に入っていきます。
 
 
名:目の前にある海はどうゆう存在ですか?
ゆ:「やらしい(笑)」
名:やらしいですね。こういうの字にすると本当にやらしいんですよね。
ゆ:「そう。鰐はゆうさんにとってどういう存在ですか?と同じですけどね(笑)
  例えば部屋の中でぐーっと考え込んじゃう時っていうのは、絶対ここに来ると
  『ま、いっかー』って。思わない?思うでしょ?こう、わーっと広い所に来た時に。
  今まで心の中で考えてて、いきなりわーって開けた時に、ま、いっかーって思わないです
  かね?私思うんですよ」
植:僕の場合は、家を出て散歩して、少し先に雑木林の開けた場所があるんですよ、そこに
  行くと、そういう感じになる事が多いですね。それはゆうさんの言う海に近いかもしれ
  ませんね。
ゆ:「つくってるとパターン化して来ますよね?器に限っていうんだったら、窪みがあるもの、
  真っ平らでもいいですけど、ある程度の限定が出来てる訳でしょう?何かを乗せる、盛る
  っていう。(海が)一回として同じ波はないんだからと考える時に、自分の器はこうある
  べきだっていう枠が外れていくんですよ。
  すべて枠外しの達人ですよね。このヒトは(注、海)(笑)
  そう、余りにも偉大過ぎて、何もかも許容してくれながらも、でも絶えず私は畏怖する
  部分があって、例えば海に行って、いい波だと思っても全然波に乗れなかった場合、
  『すいません申し訳ありませんでした』って帰って来て、という事はありますよね。
  例えば、私は乗れないんですけど、ばんばん波に乗れて、波なんかこっちで抑えてやるって
  時には、思いっ切りやられる訳でしょ?巻かれちゃったりするんですよね。しっぺ返しなん
  ですよね。恐れ入りました、出直して来ますって感じで。
  そういう意味ではものすごく気づきの原点ですね、ここは。
  かといってものすごくこの人(注、海)が偉い訳じゃなくって、本当に対等っていうとおこが
  ましいんだけど、普段っていうのは何気ない顔をしているじゃないですか?偉ぶる訳でも
  なくってそのまんまなんです。
  海の沖近くにテトラのブロックがあるでしょう?そのブロックが七つくらい、向こうまで
  水平にあるんですね。で、須々木っていう場所まで車で行って、テトラの一番端迄斜めに
  泳いで行って、あそこの相良まで泳いで行って、テトラをよじ登って、飛び込んで戻って
  来るっていうのは、ふた夏やってたんですね。毎日。でも、どうにもならない日があるん
  ですよね。もう今日はダメだって言って戻って来る、そういうあなどれない面もたくさん
  あって、それは引き返すしかないんですね。行きたくてしょうがないけども、今日はやめ
  ときましょう」
植:その話し、ゆうさんにメールで送って貰ったエッセイにあって、引き返すのも勇気、引き
  返す事が勇気って書いてありましたね。
ゆ:「そうか、勇気でしたか。でも普通の言葉ですね(笑)」
植:いえいえいえ。
ゆ:「名倉さんも両方ともでしょうけど、海か山かって言ったらどっちが心地良い?」
名:心地良い場所?
ゆ:「例えばどっちもいいですよね?
  半年間ここにずっと居なさいって言ったらどっちにする?」
名:うーん。それはすごく難しいですね。
ゆ:「じゃ、どっちもいいんだ(笑)私も多分そうだけど、旅に出たらそこで自分の場所が
  出来ちゃうからそれはそうなんですけど」
名:心地良さじゃない色々な事を含めると、海の方がいいですかね。
  海には波の音があるじゃないですか見なくても波の音は聴こえてくるし、音を感じる事も
  あるし、見てると途方もないから。
ゆ:「そうそう。動ですよね。本当にずっと動いてるからね。冬の朝なんかは耳がキーンって
  する位静かなの。波が聴こえない日っていうのは。それはそれですごいいいですよ。
  山に行ったらきっともっと色々あるんでしょうね。今は目の前に比較の対象があるから」
ユ:あ、近くにいる。近くで鳴いてる。(蝉の音)
ゆ:「朝だいたい明るくなると家の横の松林がすごいの。ミーンってとんでもなくすごい音が
  します。その位のポロンポロンだとカリンバみたいだね。
  (ユキくんがウクレレを弾いている)ちっちゃくポロンっていうと」
ユ:海用の一番安い(笑)
ゆ:「本当に波とあってるね」




名:では次行きます。さっきもやらしいって言われましたが、やらしい聞き方ですけど、
  ゆうさんにとって旅の位置付け、単純に好きじゃないですか?
ゆ:「まず形としては一人旅。もちろん二人でもいいけど、それ以上多くなくてもいいなって
  私は思うんですけど。スキューバするのと同じでバディ組むんだったら一番いいのが夫婦
  で、その次が恋人って言う位。やっぱり二人旅だったらそういう関係だったらすごくいい
  かも知れない。自分的には一人がいいかな。好みとして。位置付けとしては、遠くへ行けば
  行く程、戻る場所の事を『あ、あそこなんだ。しかも私は日本人なんだ。なんで日本人に
  生まれちゃったんだろう』って思う事がある。ここにいて考えた事ある?なんで日本人なん
  だろうって?私一度もないんですけど。
植:ない……。(ひと呼吸おき考える)
名:考えるものじゃないよ。ないんでしょ?
ゆ:一応出掛ける時は家の中をすごくきれいにして、帰って来れなくてもいい様にしてあるん
  ですよ。なくてもいいようにっていうか、これなかった場合っていう事なんですけどね。   行く場所が行く場所だから、何が起こってもいいっていう感じで、例えば世界中どこに
  いたって同じ事ですよね?出掛ける前迄っていうのは、全く知らない場所に行く場合、
  だいたいリピートするでしょう。初めて行く場所っていうのは、多少ナーバスにもなるし、
  やめようかなって思う事もあるの。でも五分位経って『やっぱり行こう』って。六分位
  経って、『もうやめようかな』って。それ、一週間とかだったらそんな風に思わないし、
  早く行きたいし。でもそれが一ヶ月から三ヶ月のスパンになると、それは思います。
  例えば目的地の一番最後の所に長くいる。 あとはもう帰るだけ。そうすると、その時に
  一番、『どうして私は日本に生まれたんだろう』っていうのをすごく思う。あの人達は
  どうしてここで生まれたんだろう。じゃ私はどうして?戻る場所の確認って事でもないん
  だけど。作品を時間掛けて見るのと同じで、自分はここなんだけれども離れて自分を見る、
  かな?」
名:作品を寝かしてみるのと同じ感覚で、自分をちょっと離れた所から見る感覚で、改めて
  自分が戻る場所を確認したりとか。
ゆ:「自分のやってること、何もかもすべて」
名:そうすると逆に、帰って来た時に、行った所の事を思い返すって事もありますよね?
ゆ:「結構しばらくの間、美味しいチョコレートは冷蔵庫にあるぞって感じで、ずっーとちび
  ちびちびちび食べてます。思い返す事はあります。当分の間、その頭になってて欲しい
  感じです。三ヶ月あっても機内持ち込みの荷物なんですよ。たくさんは持っていかないの。
  大事なのはガスコンロなんですよ。ガスコンロ。鍋。お茶碗一個。その三点セットはもう
  絶対必要。水のない所でも五分ボイルして冷ませば飲めるでしょ? 水がもしくは毎日
  手に入らなかった場合。あとは着る物は向こうで調達するし。なんで鍋釜を持って行くか
  というと、まず知らない土地の野菜をすごく食べたいの。生で食べれるんだったらまだ
  いいけど、どっちにしろ、生よりも一応火を通して、市場見に行くのがすごく好きだから、
  市場で買ってきた物を料理したいんです。そうするとね、時々、じゃあ旅をしなくても家
  でやってるのと同じじゃんって思うんですけど。ただ聴こえてくる音とか違うでしょ?
  空気も、匂いも全部違う。
  すごい不思議なのが、水平線が大好きで、地平線が大好きで、水平線と地平線って同じ
  感じでしょう?で、なんで地平線だらけの砂漠にいくのかっていうのが不思議な所。
  ここに住んでるんだから、ちょっと行くにはエキサイティングで先進国はいいかもしれない
  けど。先進国こそ、敢えて別に。日本だっていいレベルなので敢えて行く必要はないかなっ
  て。今のこの暮らしとギャップが大きい程、いいなと思う。ギャップが大きいっていうの
  は、自然はここと同じ自然ですよね? 地平線と水平線の違いで。ただ今この時点では
  コンピューターも使えるし、電気も点きます、水道もひねれば出ます、という状況でしょ
  う?そうじゃない所なんですよ、私が行く所は。水も一日掛かって汲みに行くっていう
  遊牧民の人の暮らしとか、そういう感じなので、自分が帰って来ると、そっーと水道を
  ひねるとざーってお湯なんか出たりするじゃないですか!(笑)それがすごい感激!
  サハラの近い人の家も、温度差が激しいので、朝は10度とか位で、日中は5,60度位
  でしょう?一日の内で4,50度の違いがあって、朝寒いけれども、シャワーとかしたい
  んだけれども、お湯がない訳ですよ。どこの宿もお湯はないのね。私が泊まる様な所は。
  水なんですよ。そういうギャップのある所に行きたいかな?リスクはもちろんどこの旅に
  だってありますよね?例えばうちに来るカップルが『こういう暮らししたいんですけど』
  っていう熱烈な人達っていうか、話ししてて『じゃぁこの辺探したらどうですか?』って
  『私も全然知り合いいないけど、なんとかここで住んでます』って言って。 
  で、最後の帰り際の時に、『これ津波なんかは大丈夫ですかね』って。
  それ、去年よりもずっと前の話しだよ、そう言うから。
名:そりゃあ来る時は来ますよって事ですね。
ゆ:「ね。海に、もしくは水辺に住みたいんだったら、そのリスクは受けるべきであって、
  いいとこ取りは無理ですよね。怖いから住みたいけど住めないとか。例えば高台に家の
  ある人だって、時たまその時に海に入ってたらということもあるでしょ。心配事の99%
  は、無意味だと思っているのね。心配性の人を見たりすると思いますけどね。
 
ゆ:「旅は、何ですか?」
名:僕ですか?
ゆ:「じゃぁどういう時に旅がしたいと思う?仕事忙しいけど急に旅に出たくなっちゃったー
  みたいな」
名:そういう感覚はないかな。リセットしたいって感覚はないから。
ゆ:「そうかぁー。そのリセットって誰かからも聞いたんだけどね、リセットって言葉も私も
  不思議に思うかな。時々」
植:わかりますよ。僕が旅に出たい時っていうのは、恋をしてて、片想いで。
ゆ:「あー」
植:行き場がなくて、その気持ちを抱えて、それを道に変えて行くとか。そういう旅とかです
  かね(笑)その時によく一人旅をしてました。今ちょっとかっこよく言いましたけど(笑)
名:かっこいい!?女々しいんじゃないの(笑)誘えばいいじゃん!
植:誘えないから一人旅じゃん(笑)
ゆ:「誘いたいけれども、誘えないって事ね。あーそういう事かぁー。誘いたいけども、
  かぁー」
植:いや、誘いたいとも思ってないかな?やっぱり(笑)すごい距離があるから。その子とは。
ユ:で、どうするの?
植:一人旅して、色んな風景の中に入って、気持ちが別の物に変わるじゃないですか?
  映像に変わる。景色に変わる。そういう物によって癒されるというか。昇華されるという
  か。また帰って来て悶々とした気持ちも抱えるんですけど、その時は癒されているって
  いう。
ゆ:「片恋の時は、旅に出たいと思うかなー。そんな仲良しだったら二人で行くと思うけど」植:それはまぁ、以前そんな旅があったって話しですけど。でも僕もリセットとかではなくて、
  日常の延長上に旅があると思っていて。
ゆ:「敢えてそれを求めるとしたら、こんなに長く同じ町内に住んでるのに、一回も通った事
  のない道っていうのはすごい旅だよね? 今、朝市は自転車で行ったりしてるから、
  自転車で五分から十分位の所に小道があるのね。ホントに狭い道で。 毎回違う道をこっか
  ら行けるかなって、そうやって走ってる。夏は気持ちがいいから、それはとってもいい。   今日初めての事だ。
  そうだ!旅はね、全部が全部何もかも初めてでしょう?
  普段の生活は一日一個初めての事があればって思ってるの。
  初めてやった事とか、初めて見た事とかなんでもいいんだけど。
  それが旅では連続じゃないですか?全て何もかも全部!一日が!
  それが最高かも知れない。それが一番行きたい必要とする事かな?
  なんで旅が面白いの?って言ったら全部初めての事だからって言えるかな。
  そう思うとすごいワクワクしてくるでしょう?
  全部初めての一瞬一瞬、全部初めての事を一ヶ月もするとなると、例えばここに居る時
  だったら、割と目を瞑ってじゃないけど、何にも考えてなくてもここに歩いて来れるじゃ
  ないですか?車に乗ってても考えてなくてもこっちに曲がっちゃうし。そういう事は
  (旅では)在り得ないですよね?
  とにかく脳みそがフル回転してる。それがすごいいいかも。
  人に伝えるって事もそうだけど、単語のひとつが出てこなかった場合も脳みそがグルグル
  回ってて。特にあの辺の国の人達は、時間が有り余ってるから、人を見ればつかまえて、
  話しをしたがるから、そんなんで市場に行きたかったんだけど、途中でつかまっちゃって、
  ずっと話込んで、『あ、市場閉まっちゃったよ』っていう状況とか。
  もうあの人につかまらない様にこっちから行こうとか、そのぐらいみんな話しがしたくて
  しょうがないから。とにかく、毎回毎回毎回、気づきがある訳ですよ。言葉ひとつに
  したって、初めて会った人と話しをすると、時々意味のわからない事があったりする
  でしょう? それがもう一回出てきたりすると、これはこの人のクセなんだ、こういう
  言葉をこういうシチュエーションで使う人なんだってやっとわかったって思ったら、
  すごく話が伝わりやすくなった、繋がりやすくなった。
  ですから、異国にいて異国の言葉を話す事にしたって、さっきはあんなに話しが通じたの
  に、どうして今回は話しが通じないんだろうって。それはその人のクセなんですよね。    よく聞いてみると、私達が『そうだろう』とか『な?』とかただそれだけの事なんだけど、  その言葉がとてもわかり難く、わからなくなっちゃって。
  この人のクセなんだってわかると、話すのが下手とかじゃなくて。相手の言葉をつかまえ
  て、同じ様に言葉を使うと、とっても距離は縮まるわね。
  その土地ではそういう言葉の使い方がされていてるんだとか、なかなかそういう意味での
  気づきもあるし、コミュニケーションの気づきもあるし、村に入るとなんか独特の匂いが
  する。本当に実際の嗅覚としての匂いと雰囲気としての匂いとあるんですけど。
  だからフル回転、全身の細胞が全部使われてる、どくどく活性している感じがするわね」

名:それだと旅でそういう事を求めているというよりも、日常生活の中でそういう事を意識して
  いる事の方が多いですかね。例えば、考えなくてもここを曲がるとか、目を瞑っても何かが
  出来るとか、それって人間の当たり前の行動だけど、それが当たり前になっていく事への
  疑問ってすごくあるんですよね。
ゆ:「思考する人ですね。名倉さんは。哲学する人ですね」
名:わかんないですけど…形骸化することにすごく嫌悪を覚えるというか、当たり前の事って
  確かにそれはその通りなんだけど、あれ?なんでだろう?って思わずにはいられない。
ゆ:「あるある。私も質問しまくりで嫌われる事があります」
名:逆に日常生活は無意識で出来る事がいいんですけど、それが仕事とか自分が好きでやってる
  事に対しては絶対嫌というか、そうなれば自分で壊すというのは常にあって、これはこう
  いうものだけど、今はこういうものなんだよ、でも次の時はそうじゃないかもしれない。   その『かもしれない』って所は常に意識していたいというか。そこを見ないというそんな
  退屈な事はないというか。やる気が起きないし、つまらない。
ゆ:「当たり前なのに、当たり前である事がなんでだろう?それは答えは出ないんですよね。
  ただ思考するんですよね。思考する事が大事で、答えを出す事が大事じゃない」
名:旅とは違うんですけど、何で仕事しているかというと、そういう所が楽しいから。
  それが面白いって思えない仕事だったらやらない。絶対やらなければならないと思えない
  からね。やっぱり仕事って色んな人と集まってやるから、ルールがあるじゃないですか?
  そのルールっていうのが確かなものかもしれないけれど、でも、そうじゃない事も有り
  得るよね?って思うんですよ。変える必要あるなら自分らで変えるって。
ゆ:「そう。他者がいるから、その疑問ていうのは絶えずあるのだと思う。自分の個があれば
  あるほど、自分の個という存在をわかってればわかってるほど、他者に対してその疑問は
  起こると思う。そういった意味では私のこのシチュエーションで、比較の対象(他者)って
  のが普段日常的にはないから、どこかに行ったりすればあるよ、でもそういうのがないか
  ら。いい意味で言ったら超個性的になってるかもしれないけれど、日本社会に対しての
  適応性には欠けるかもしれない。


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名:次の質問なんですけど、コミュニケーション、ゆうさんにとって会話ってどういうもの
  ですかね?
ゆ:「うーん、それは『楽しむ事とはどういう事』とか?」
名:そうですね。
ゆ:「会話?会話をしたいとか?」
名:色々ですね。
ゆ:「色んな事を含めて?」
名:色んな事を含めて。
ゆ:「すごく会話をしたい時はあんまりないんですよ。以前、撮影の時に、動画っていうから、
  私しゃべるのダメですからって言って、普段一人だし、もう声帯枯れますから、退化して
  ますから、って。そうしたら『でも独り言は言うでしょ』って。
  『言いませんよ独り言なんか!』って私言ったの。
  ホントに言わないんだもん、独り言なんて。
  でも多分、心の中で(沢山)話ししてると思うのね。口には出さないんですよ。
  そういうので、会話をすごく必要とはしてない。ここに自分のつくるものがあるから。    これは自分の投影であって、自分と話ししてるのかもしれないし。
  で、会話よりは対話ですね、どっちかっていうと。根本的に何か軸として同じ様な人だった
  ら話しはいいかもしれないけど。ものすごくとんでもなく離れていない限りは、その互いの
  違いを話すっていうのはいいかな。もちろん日常的に他愛ないおしゃべりは力の抜けたその
  状態の中から、何か気づけることはいいかもしれないけれど。
  よりよいものとしては対話であって、投げた事に対して受け取るって事をして、投げた事
  に対して相手から戻って来る事を私が受け止めて考えたいって事はあるよね?そういう
  おしゃべりは好きかな」
名:会話じゃなくやっぱりそれは対話ですね。
ゆ:「すごい仲良しな人達でいませんか?一年も二年も会ってなくても、魂レベルでって
  言い方はあれですけど、そうやってすぐ話しが出来る人っているでしょう?」
名:そうですね。そういう人しか周りにいないですね(笑)
ゆ:「そうじゃない、私なんかは近所に色んな人がいるんで、そういう(深い話ができる)人が
  いる傍ら、そうじゃない人達もいる。そうすると、とってもいい感じのこの人はどこから
  話しをしていけばいいのか?って段階、ステップですけれども、別にそれがかったるいっ
  て意味じゃないですけどね。例えば今の話しみたいに、私おかしかったっけ?の確認とか、
  そういう些細な事でおしゃべりとかはしてもいいかなって思うけど。
  旅をしてて思うのは、ニュージーランドから、私は日本から。(出会った人がいる)
  ここを求めて来るからある程度の部分では近いんですよ。
  そうするといきなり魂レベルで話しが出来るの。
  それは向こうで出会う人の醍醐味かもしれない。おもしろいかなぁ、それ」
名:逆に言うと、僕は他愛のない会話というか、世間話?そういうのがいまいち出来ないと
  いうか、苦手というか、そういうのでいったりきたりが出来ないんですね。全部が全部
  じゃないですけど。
植:テレビ観てどうこうだったとか?
名:そう。
ゆ:「テレビ観る人いないでしょう?」
名:いませんね。テレビ、家にないんで。苦手というか、基本的にそういうことは一人で
  やってるもんじゃないのって思っちゃう。自分の中で、とか。
ゆ:「アフリカにいた時、割と街だったんで、。そこでヨネさんという知り合いの家に一ヶ月
  位いた時に、街の中で丁度市の立つ日だったんで行ったんですよ。一回も怖い目とか
  危ない目にあった事がないんですけど、お!怪しい!って目が合っちゃった人がいたん
  ですね。そうしたらやっぱり怪しい人で、いきなりひったくろうとする訳。でも、頭一つ
  分くらい大きい人なんですよ。元々みんな大きいでしょう?180センチ位あるんだけど、
  もっと大きかったのね、目立っちゃうし、向こうからやって来て、私の鞄をぐーっと
  持ってこうとしたから。周りの人達冗談だと思って全然助けてくれないのね。
  私はどうしたかっていうと、空手をやってたものだから、反射的に足で蹴ったんですよ。
  回し蹴りっていうか(笑)それでうちに帰ってヨネさんに、ひったくりに遭ったって言った
  んだけど、そしたら一、二時間して表に出たら隣の修理工場のお兄ちゃんがいて、よくしゃ
  べるんだけど、『ゆう!シャ!』って空手の真似するのね。街を歩いていたら、みんな
  『ゆう!シャ!』って(笑)とっても速かった。速い(伝達力)」
名:光回線ですね。
 
 
植:じゃ、僕の方から質問していいですか?
ゆ:「はい(笑)」
植:陶器を窯から出す時に、ひとつひとつがいとおしくてキスをするっていうお話しがある
  んですけど、つくる事と愛する事の関係性というか、その辺りの事を聞かせてください。ゆ:「ヤバイですよこれは(笑)」
植:語ってください(笑)。
(名倉とユキは無言)
ゆ:「アトリエに入って来る時に、これは本当にヤバイと思うんですけど、自分で夢中になって
  してるでしょう?その時にすごく愛する人がいたとするでしょう?そういう人がアトリエ
  の中に入って来たとする。簡単に言うと、愛する人が二人いる様な気がする。だから混乱
  する事があるんですよね。これもすごい大大好きだし、この人も大大好きだし、だから
  入って来ないでくださいって言いたくなる。なんかそういうのって、ジェラシーでもない
  し、なんなんでしょうね。面白い感覚なの。だって自分が両方好きでもいいんだよね?」
植:はい。
ゆ:つくる事と愛する事の関係性?
  よく言われるのは、すごく好きになると全てその人の方を向いてしまって、何も手に付か
  ないとか、段階にもよるんですけど。そういう事もあるんだけど、より一層力が倍増された
  様な気持ちになって、一層つくる事に情熱を傾けられる人とかもいるんですよね。
  私はそういう事も有り得ます。
  つくる事に対して愛する人がいたとすると、段階は別としてやっぱりそれはよりパワフルに
  なるかもしれないし、そういう部分はありますね。ただ、そこら辺は難しい所で、よりパッ
  ション的な気持ちでただガンガンいけばいいんじゃなくて、それはなんて力強いものかって
  思うかもしれないけれども、表層だけかも知れない。なんか美味しそうな物があっても、
  中、火通ってないねってなったら美味しくないじゃないですか?
  だから中まで火が通った状態でいい作品が出来たら最高ですよね?」
植:情熱を注いでそれが形になるって事ですよね?
ゆ:「うん。生きている対象の人間として愛する人がいた場合に、つくる事は増幅する様な。
  一人でいる時に使ってない細胞があるとしたら、六十億かそこらあるとしたら、片や愛する
  人が、使ってない細胞まで活性化させてくれる」
植:ああー!
ゆ:「そういうのもあるかも知れない」

 
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名:あと二つ質問させてください。現実に戻しますけど(笑)
植:甘い世界から(笑)
名:護国神社で開催されている静岡の手創り市『ARTS&CRAFT静岡』に参加しようと   思ったきっかけ。あと感想を。
ゆ:「現実的に言ったらまずパンフレットのイラストがすごいいい感じだったかな」
名:山口さんの。
ゆ:「はい。今のネットのもそうですよね?あれもすごい好き!ラフで繊細って言うのが。    あれが良かったのと、知り合いのイラストレーターさんが『いい感じだから私も行きたい』
  って言っていて。彼女も素敵なイラストを描く人なんですけど、おおそうなんだって思っ
  て。そこそこいいレベルで保たれてるんだなっていうのがわかるよね?まだみてもないの
  に。そういう意味で口コミってすごいですね。で、そういうのがあって、近いから二日間
  日帰りでもいいなっていうのもあって。初日でしたっけ?雨が降って」
名:そうです。初日です。
ゆ:「雨降るのはいいんですけど、砂利は苦難でしたね。荷物が重たくて。砂に食い込む流木
  を引きずってる感覚だなって言うのがありました。場所的には私にとっては狭いかなって
  いう。あと正面に鳥居っていうのは最高ですね!イラストも良かったけれどもこれを一回
  みに行きたい、この場所に行ったらどんな感じだろうというのには興味があった。
  鳥居の向こうに森になってるでしょう?あれがいいですよね。あれがなかったら別にいい。
  それを話さなかったかな?あの鳥居と森がすごくいいって。名倉さんか誰かに言った気が
  する。これがあったから来たかったんだって。感想は、いい感じでした」
 
 
名:最後の質問ですけど、今後の目標を教えて下さい?小さい事、大きい事、なんでも。
ゆ:「願ってる事?すごく不思議な事があるの。毎朝、立体をつくるでしょう?絵でもいいし。
  立体だとリアルなんだけど。ただ考えてるだけなのに、それが午後になったらその形が
  出来ちゃうって事が未だに不思議。むっちゃ不思議じゃない?!」
植:時間の経過はありますけど、それがいつの間にか出来上がってるっていうか?
ゆ:「出来上がってるんじゃなくて、頭の中で考えてたのになんでこれがこのまま
  出来ちゃったのって。小さな夢が叶っちゃったんですよ!例えば私が海辺に越したいと
  思って、今海辺に住んでるじゃんって。なんであの時考えてただけなのに、来ちゃった
  じゃんって。住んじゃってる」
植:イメージの具現化ですよね?
ゆ:「うーん。具現化、そうですね。思わない?そういうの。今日スプーンつくろうって
  思ったら、色んな形のスプーンがさっき迄あの棚空っぽだったのに、 (暫くしたら)並んで
  るじゃん。まるで私がつくったんじゃないみたい、みたいな。なんか、夜中に小人がつくっ
  てるって(笑)思うぐらい。誰がつくったの?小人さんいるでしょう?そういう小さな事
  から大きな事まで、目標じゃないんですけど、思ってるとちゃんと叶っちゃうなって。    それは私の力だけではないじゃないですか。
  一人だけで完結出来るものじゃないでしょ?こういうの。だからそれが不思議なの。
  つくるのは私がつくったので小人さんじゃないんですけど、わかりません。
  目標は具体的に言葉に出してこういう風だったらいいなっていうのはありますけど。     ちっちゃい冊子でもいいので、エッセイと絵と、つくろうかなって。
  そういう小さな思ってる事はいくつかあるかな。
  大きな目標?目標持たなきゃダメかな?こんなに満たされてるのに。
  時々思うんですよ、みなさんは、あれとこれとそれと同時に手に入れようと、その目標に
  向かってやってる訳ですけど。私が一番やりたい事で好きな事はここにあって、これが一番
  なので。二番目、三番目四番目は、この同じ間隔で二番目があるんじゃなくて、一番と二番
  の間はこんなに離れてるんですよ。だから要するに一番と二番、一番があるから一番以外は
  いいやって感じなんです。ここにあるから。その次の二番目にあることはずっーとこの辺な
  んですよ。何もかも全てを満たさなくてもいいかなって。グラスの中のいっぱいのお水
  だったら、これでいいかなって。私の容量はこれだから。これだけでしょう?この中に
  入る分だったらそれはいいかもしれないれけど。
  一年好きに時間あげるって言ったら、ぴゅーと旅に出ちゃう。そういうのはありますけど。  ある与えられた期間の中でやる事とかなら。
  この一年の時間とお金をあげるって言ったらそれはするかもしれない。
 
名:植岡さんから何かある?
植:この後、編集後記用に聞くから大丈夫。ユキくんは?
ユ:よくお話しを聞いてました。
ゆ:「あとは泳ぐだけですね」
名:長々とありがとうございました。
一同:お疲れ様でした。


kobayashiyuu_e.jpg


今回もとてもとても長い記事となりました。
最後までお付き合い下さいまして有り難う御座います。
今回のアトリエ訪問はいつものインタビュー、Q&Aというよりもこばやしゆうさん
私との対話という形に結果的になりました。きっとそれはゆうさんらしさを自然と
汲み取ったゆえの形であるのでしょう。
この日、久しぶりに海で泳いだ私たちは、色々なことが余りにも気持ちよかったからか、
ゆうさんのアトリエから東京へ戻る時に「ビールをのもう」といてもたってもいられ
なくなり、急遽私の静岡の実家に寄りビールをさくさくあおり早々と眠りにつき、
早朝東京へ戻ることに。
ゆうさん、楽しいひと時を有り難う御座いました。 名倉
 
※アトリエ訪問へのご感想は下記mailまでお気軽にどうぞ。
 
手創り市
info@tezukuriichi.com







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